第8話 AM7:00~新しい朝が始まる

:◆SE 玄関のカギが開き、扉が開く音



「ただいま~」



:◆SE 床をとたとた歩く音



「なんて。まるで自分の家みたい」


「一晩いただけで家主ヅラすんなよって感じよね」


「うーん、外に出かけたおかげでちょっと汗かいたかも」


「えっ、いいの?」


「ごめん。ありがとう。じゃあお風呂借りちゃうね?」


「あ、着替えどうしよう?」



:◆SE リスナー、歩く音。引き出しを開け、着替えを取り出して、和紗のもとへ



「……なにからなにまで、お世話になりっぱなしだね」


「高校の時から変わらないなーって思ってたけど、こういうところ、真面目に働き続けてるだけあってあんたの方がずっと大人だわ」


「じゃ、行ってくるね」



:◆SE 洗面所のスライドの扉が開いて、閉まる音


:◆SE 衣擦れの音の後、浴室の扉が開いて、閉まる音


:◆SE 数秒の間、浴室から微かにシャワーの音


:◆SE 足音の後、リスナーが洗面所に入る扉の音



「え? な~に?」※浴室から反響している声



:◆SE シャワーの音、止まる


:◆声 声が浴室に反響する:開始



「タオルねー、ありがと」


「うん、洗濯機の上の棚ね。わかった」


「なんだったら、そこで待っててくれていいけど?」※からかうように


「サービスとして、あたしの体を拭く権利をあげる」


「あはは。なんて。冗談にしては図々しいよね」


「は? なに?」


「摺りガラス越しに見る体も趣がある? まさかあんた、そんなくだらないこと言いに来たの?」


「……まー、いいけど。さっさと済ませちゃうから。ありがと」



:◆声 声が浴室に反響する:停止


:◆SE ガラガラと洗面所の扉を閉める音


:◆SE ソファに深く腰掛けるリスナー



「ねー、ここのドライヤー使っていい?」※洗面所から居間の主人公へ


「ありがとー」



:◆SE 数秒、ドライヤーの音


:◆SE リスナー、立ち上がって歩く。冷蔵庫を開けて、閉じる音。再びソファへ向かう足音



「おまたせー。シャワー、マジでありがとね」


「え?」


「いや、バスタオル巻いただけの格好で出てくるわけないでしょうが」


「そんな不満、言われる筋合いないんですけど?」


「だいたい、このTシャツもスウェットも、あんたが選んで貸してくれたものでしょ」


「ほら、どいてどいて。あたしにもソファ座らせて」



:◆SE 和紗のためにソファを移動する主人公と、空けた場所に座る和紗


:◆SE 目の前のテーブルに、缶ビールが置かれる音



「なにこれ。くれるの?」


「朝からビールって」


「まあ、こんな時だから、いいのかも」


「じゃ、こんな時間まで寝ずに過ごした社畜と無職のダメダメな二人に」


「かんぱーい」



:◆SE タブを開ける音。2つ分


:◆声 ビールを一気にあおる和紗。わりと豪快な嚥下音



「んっ……くっ……はぁ……」


「はーっ」


「効くわー。早朝のビール!」


「……今日はさー、色々ありがとね」


「あんたと再会できてよかった。これは正直な気持ちね」


「おかげさまで青春を少し取り戻せた気分だわ」



:◆声 缶ビールを飲む和紗



「んっ……んっ……ぷはっ」


「明日からまたー、頑張れそうだし?」


「あれ? 今日からかな? まあどっちでもいいよね」


「新しい仕事探して、今度は上手くできるように頑張る」


「え、ちょっとなによ? 呆れた顔なんかして」


「お別れムード出してるって? そりゃそうでしょ。だってあたしは――」



:◆SE 抱きしめられる和紗


:◆声 以降、リスナーの耳元での会話


「……」


「……そう、だよね」


「なんで私、これっきりの縁みたいな言い方しちゃったんだろう?」


「……多分、昔からそうだったからかも」


「あたしが、あんたと別の大学に進学した時も、ちゃんと連絡取っておけばよかったんだ」


「なのにあたしは、あんたのことは完全に過去のことみたいに思って」


「……あたし、あんたに期待してたの」


「あんたの方から、何かしてくれるんじゃないかと思って」


「ごめんね、あんたに押し付けてばかりで」


「なんかさ、気に入らないことがあれば食って掛かる勇猛果敢な女みたいに自分のこと言っちゃってたけど、結局あたしは受け身で、待ってるだけの女だったんだよ」


「本当に大事なことで、本当に大事な人と揉めるのが怖かったのかもね」


「あたしがいつもみたいにやらかして、あんたと何もかもが台無しになるくらいなら、いい思い出としてずっと取っておきたかったんだ」



:◆声 以降、リスナーの耳元ではなく、間近で見つめ合っている程度の距離感



「あたしってホントにバカだよね」


「ね。これからも、あんたとこうして一緒に過ごしていいかな?」


「うん」


「……ありがと」



:◆SE 抱きつく和紗


:◆声 以降、耳元での会話



「えっ……?」



:◆ 驚いて、息を呑む和紗。落ち着くまでの数秒



「……6年だよ?」


「もう、一生言われることなんてないかと思ってた」


「……」


「あたしも、あんたのこと好きだよ?」


「……ふふ」


「こういうの、もっとお酒臭くない時に言いたかったかも」


「スマートに決まらないのも、なんかうちららしいよね」


「でも、最高の気分」


「これまでのもやもやした気持ちが、一晩で全部なくなっちゃった」



:◆SE 衣擦れの音。数秒の間セリフなしで、缶ビールに口をつけ、テーブルに置く動作の物音



「え? あんたの会社で?」


「そうなんだ。受付嬢を募集ねえ……」


「あたしに務まるかな? 速攻で揉めてクビにされたりして」


「ふふ、そんなことは絶対させないって。平社員のあんたに何の権限があるのよ」


「ね、もし採用されたらさ」


「あたしは短期間で恋人と仕事を手に入れられることになってわけでしょ?」


「しかも、2つともあんた絡みだし」


「あんたって、もしかしてあたしの幸福のお守りかなんか?」



:◆声 甘えながら耳元で囁く



「めんどくさい女だけど、これからよろしくね」



:◆SE 外から聞こえる、のどかな休日の自然音

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酔って部屋に連れてきてしまった美人は、高校時代にちょっといい感じだった女友達でした。 佐波彗 @sanamisui

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