第十六死 森からの脱出⑤

「ハッ!」


深く沈んでいた意識が覚める。僕はあいも変わらず森の中にいた。だけど周りを見渡すと先程までとは違う景色にひとまず胸を撫で下ろす。


「やっぱり予想は正しかったみたいだ…」


―あの化け物が死ねばここから出れる―


化け物が小栖立さんに何故かビビっていたことから僕はそう考えた。


思えば自分を傷つけられたりした時はものすごくキレていたし、逆に小栖立さんは手で薙ぎ払うなどして近づけないようにするなど。 


恐らくあの化け物が生み出した仮想の空間はそんな類のスキルなのだろう。


最後の爆発…僕の体は不死身だから死ななかったけど、あの化け物は…


考えながら再び周りを見渡すが化け物がどこにもいない。


「一体どこに…」

「物語くんッ!!」


考え事をしていると突然後ろに強い衝撃を感じた。だがそれは硬いというよりむしろ柔らかく…振り返ると小栖立さんが僕に抱きついてきていた。


「小栖立さん…一体何して―」


一体何してるんですか…そう聞こうと思ったのだが、


「大丈夫ッ?どこも怪我してない!?血とか出てない?!」


と矢継ぎ早に質問され、思わずたじろぐ。 


「それよりも、あの化け物はどこですか?」


僕より先に目覚めていたであろう小栖立さんに化け物の行方を聞く。


あのとき小栖立さんが消えた理由…それは、小栖立さんはスキル、聖女の効果によりあの化け物のスキルを少しずつ打ち消していたのではないかと僕は思った。


そしてそれにより幻惑の世界にいれなくなった彼女は自動的に現実世界に戻された…と…


「あいつ?あいつなら逃げたよ。」

「え?」


なんでもないかのように答える小栖立さんに少し間の抜けた返事をしてしまう。


「なんで…逃がしたんですか?」


逃がした理由…僕はそれが何故かものすごく気になった。


「なんでって…あんなやつよりも寝ていて動けない物語くんの方の方が大事だから…」

「大事…?」

「うん!そうだよ。だから…の…」


その言葉に何故か僕は薄ら寒さを感じ少し身じろぐ。


そうか…逃げたのか…だけど問題はない。どうせすぐに居場所はわかる…


そうして僕がそんな事を考えていると小栖立さんが再び口を開く。だけどそれは何か言いたげな表情で…


「そんなことよりも…物語くん。また…自分を犠牲にして…」

「犠牲…?」


小栖立さんが先程とは打って変わって真剣な表情になる。


「私見たよ…あなたの体が急に爆発したところを…」

「何のことで―」

「――誤魔化さないで!!!」


声を荒げ、顔は耳まで真っ赤になっていたがよく見るとその目には涙が溜まっていた。


「……」

「爆発したんだよッ!!あなたの体が!!何でそんなに平気な顔ができるの?!」

「それは…」

「自分の命を、自分の体を軽んじないで!あなたを大切に…死んでほしくないって思ってる人がいることも分かってよ!!」

「……」


分からない…何で彼女はそこまで怒っているのだろうか…考えれば考えるほど僕の思考は深く…深く沈んでいく。


…いやよそう、考えるだけ無駄だ。それよりも今はやることがある。


そうして僕は片手に握ってある、スイッチをゆっくりと押した。



・・・・



「はあ…はあ!何なの…一体何なのよあれはッ?!」


あたしは魔族の中でも上位に君臨するサキュバスよ!?それをここまでコケにしやがって…


だが…


女の方も勿論やばかった…でもそれ以上に、あの男は異常だ!!


あたしを巻き込んだ最後の自爆…その爆弾が弾けるその瞬間…あたしは見た。あいつの表情…その口元が狂気的に歪んでいたところを…


そう魔族…サキュバスは真からの爆弾をまともに食らったせいで体はもうボロボロ、もはや体力の限界も近づいてきていた。


「はやく…はやく誰かの生気を…誰でもいい…このままでは死んでしまう…!」


もうじきで力尽きる…



―そんなときだった。


『ガサガサ』


茂みの方から音が聞こえる。しばらくするとその茂みから人が飛び出してきた。


「え?……」

「………見つけた。生気…生気を吸わせろぉぉ!!」

「ぴぃッ!!」


それは物語達を裏切り、逃げた女…葛葉 未来だった。


「な、なんで!!命だけは助けてくれるって言ったじゃないですかぁ!!?」

「知ったことじゃない!!大人しく吸わせろ!!」


火事場の馬鹿力とでも言おうか…サキュバスは今にも倒れそうな自身の身体にムチを打ち全速力で葛葉を追いかけていた。


「ひぃぃぃ!!」


だけど葛葉との距離は開く一方。


それもそのはず葛葉は日本にいた頃からの経験で、逃げることとなると負け無しを誇るそれほど速いのだ。


「へへ!遅いですねぇ!!そんな鈍足じゃ私は捕まえられませんよ!!ベェ〜!!………ぐぇッ!!」


だが逃げ切れると確信し調子に乗ったのか、生えていた木の幹に気づかず転んでしまう。


「いたたたた…」

「捕まえた…」


そしてサキュバスは葛葉が転んだ一瞬の隙を見逃さず、葛葉に追いついていた。


「あ、あの…助けてもらえたりは…」

「生気を吸わせろ!」

「ですよね〜……終わった…」

「さあ!生気を!!」

「ひッ!?」


化け物はどんどん近づいてくる。対する葛葉は未だ体勢を崩したまま。


これには葛葉も死を覚悟した…のだが…



次の瞬間


「なッ!?そんな!こ、こんなことッ―」


『ドォォォォン!!!』


目の前が突然光ったと思ったら大きな音が突然として鳴り響く。


そしてその衝撃で近くにいた葛葉は気絶をしてしまう。


・・・・


―同時刻―


『ドォォォォン!!!』


「どうやら、うまくいったみたいだ…」

「なに…この音…」


そう言いながら2人して音が聞こえた方へ視線を向ける。


「小栖立さん…行ってみましょう。」

「…分かった。」


小栖立さんは何故か少々不満げではあったが一緒に音の聞こえた方向へと行くことに。


だけど僕はこの音の正体を知っている。


何故ならこれは―



―僕が仕掛けた爆弾だからだ―


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死にたがりの不死者と死なせたくない25人のクラスメイト 花見 晴天 @kotatu123

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