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結局、瑛太の家族は予定通り東地区の山ノ中高原キャンプ場へ行ったのだった。やはりネットが使えないので何もすることがない人が多かったのか、瑛太が思っていた以上にキャンプ場は混んでいた。
そして彼の家族はサイクリングしたり山歩きをしたりしてキャンプを楽しんだ。もちろん瑛太は自然の風景やめずらしい植物の写真をたくさん撮ることができて大満足だった。しかし、キャンプで一泊した彼の家族が家に帰ってきても、ネットはいまだに復活していなかった。
意外だったのは、ネットが使えないと電話も使えなくなる、ということだ。今は VoIP と言って、携帯電話も固定電話もほとんどネットを使うようになっている。昔は瑛太の家もアナログの電話回線を引いていたが、今はネットと共用の光回線になっている。しかしそれがアダとなって、彼の家の電話も全然つながらなくなってしまった。電話がつながらなければファックスもできない。そのため、郵便局や宅配便がすごく忙しくなっているという。
ちなみに山ノ中小学校は光回線の他にアナログの電話回線も使っていて、同じくアナログ回線を使っているところなら今でも電話が通じる、とのことだった。だからあの日、町田さんがいるサービスセンターに連絡できたのだ。
キャッシュレスはクレジットカードも電子マネーもQRコードも何も使えなくなり、買い物は現金に戻っていた。銀行のATMはインターネットとはまた違う回線を使っているらしく、普通に入金も出金もできるが、一日におろせる金額は10万円まで、という制限がついていた。
いきなり大復活したのが本屋とレンタルビデオ屋だ。一時期は本屋もネット通販に押されていたが、ネットが使えなければ本は本屋で買うしかない。もちろん電子書籍はダウンロード済みのものしか読むことができなくなっている。
動画サイトやサブスクも使えなくなったので、映画やドラマを見たい人たちが一気にレンタルビデオ屋に押し寄せていた。テレビが報道番組しかやっていない、ということもそれを後押ししていた。といっても、DVDプレイヤーやBDプレイヤーを処分してしまった家も多く、家電販売店ではそれらが飛ぶように売れているらしい。
父さん母さんが子どものころはこれが当たり前だったんだぞ、なんて両親は言うが、瑛太にしてみれば、そんな二十年以上も前のことを言われても全然想像がつかなかった。彼が生まれたころにはすでにSNSも動画サイトもあったのだから。
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ようやく全てが明らかになったのは、連休の最終日だった。ある国がGPD-5という高性能なAIを作ったのだが、それが悪いハッカーたちによって、インターネットを通じてハッキングするようにプログラムされてしまったらしい。GPD-5は人間がかなわないくらいのスピードで、しかもいろいろな方法でハッキングを仕掛けてくるので、どんなコンピュータもすぐ乗っ取られてしまう。そして、その乗っ取られたコンピュータはGPD-5の味方になって、他のコンピュータをハッキングしはじめる。そのようにして全世界的なハッキングが嵐のように起こったのだ。
インターネットを元に戻すには、GPD-5をなんとか止めないといけない。だけど、GPD-5は今やインターネット上にたくさんのクローン(コピー)を作っていて、その全てを一気にやっつけないと止めることはできないという。そのため、今のところ手の
新聞の紙面やテレビ、ラジオでは、AIの暴走とか人間に対する反乱などという、おそろしい言葉が飛びかっていた。GPD-5は現在、いろんな国の軍事コンピュータに攻撃を仕掛けているようだ。軍のコンピュータがGPD-5にやられてしまったら、第三次世界大戦になってしまう。このままでは人類はAIに滅ぼされてしまうかもしれない。誰もが不安を感じていた。
そのような状況でも、瑛太たちは普通に小学校に登校することになっていた。ノートブックは使えないが、ホワイトボードでも授業は十分にできる。それに、心配なことはたくさんあるけど、先生やクラスのみんなといっしょにいられるのなら心強い。もちろんワカもいっしょだ。だから瑛太は学校に行きたくてたまらなかった。
連休が明けると、いつものように瑛太は楓といっしょに学校に向かう。連休の間、楓はなんとかインターネットに接続できないか、いろいろ試していたようだ。だけどやっぱりどうにもならなかった、という。
学校につき教室に入ると、いつものみんなが次々に登校してきた。やっぱり仲間の顔を見ると安心できる。それはみんな同じようだった。もちろんワカもいつも通りだった。
そして、朝のホームルーム。いつものように若村先生がやってきた。
いつものように委員長の瑛太が、起立・礼・着席の号令をかける。そして朝のあいさつ。ここまでは全くいつものとおり。だが。
「みなさん、今日はお客さんが一人います。どうぞ」
先生のその声に、ガラガラと引き戸をあげて入ってきたのは……みんながすでに見覚えのある人だった。
「町田さん!」
そう。ワカのメーカーのサービス担当の町田さんだったのだ。彼女はニッコリして会釈し、教卓にやってきて若村先生と並ぶ。
「町田さんがみなさんにお話があるそうです。では町田さん、お願いします」
そう言って、先生が教卓からはなれた。
「ありがとうございます、若村先生」
町田さんがみんなを見回し、そして、話しはじめる。
「実は、ハッキングされたワカのストレージユニットを調べていて、すごいことが分かりました。ひょっとしたら、ワカは……世界を救うことになるかもしれません」
「ええええっ!」
その場の全員が大声を上げた。
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