第四章 対決! ワカVS悪のハッカーAI
1
祭の日から、一週間後のことだった。
「あれ、おかしいな」
総合学習の時間。ノートブックで調べ学習をしていた楓は、思わず声を上げる。
いきなり、ネットがつながらなくなってしまったようなのだ。
「みんな、ネットつながる?」
楓はその場のみんなを見渡す。
「……あれ、ダメだ」首をひねっているのは、武だった。
みんなの声を聞くと、やっぱりネットにつながらなくなっているらしい。
「先生、ネットにつながりません」
瑛太が言うと、若村先生は困り顔になった。
「ごめん。先生のパソコンもつながらないみたい。どうしちゃったのかしら」
「ワカはどう?」
楓がとなりのワカに問いかける。ロボットなので直接ネットにつながることもできるのだが、人間の生活を学ぼうとしているワカは、他の子供たちと同じようにノートブックを使っているのだ。
最初はワカのタイピングはかなりヘタクソだったのに、今は他の子供たちと同じくらいか、むしろ少し速いくらいだった。それでもクラス最速の楓のスピードにはかなわなかったが。ちなみに祭りの後ワカは「手術」を受け、今は子どもサイズの身長に戻っている。
「ダメですね。ワタシのノートブックもネットにつながらなくなってしまいました」
「ワカ自身は? Wi-Fi にはつながる?」
「Wi-Fi にはつながっているのですが、インターネット接続ができないようです」
「
「やってみます」
そうワカが応えた、次の瞬間。
「!」
いきなりワカの上半身が、ガクン、と机の上に突っ伏した。
「ワカ!」
ガタンといすを鳴らして席を立ち、楓がワカに駆け寄る。
「ちょっとワカ、どうしたの?」
楓はワカを揺さぶろうとするが、ビクともしない。両目は固く閉じられている。
「ワカ!」
「ワカ、どうしたの?」
先生もみんなもワカの周りに集まってきた。
「どうしたんだろう……教室で勉強する時はいつも電源がつながっているから、電池切れにはならないはずなのに……」
楓が首をひねると、先生も不思議そうな顔になった。
「何かトラブルが起きたみたいね。修理サービスの人たちを呼んで、見てもらいましょうか」
そう言って、先生はスマホを取り出して、電話をかける……が、
「あれ? ダメね。圏外になってる」
「ええっ!」
先生がそう言うと、みんなも自分のスマホを取り出した。
「ほんとだ。ぼくのスマホも圏外」
「おれも」
「わたしもよ」
「……」
いったい、何が起きているんだろう。なんだか楓はいやな予感がしてならないのだった。
---
職員室に行った若村先生が教室に戻ってきた。固定電話からワカのメーカーのサービスセンターに電話したところ、そちらもネットにつながらなくなって大混乱になっているらしい。ワカのところに来られるのはいつになるかわからない、とのこと。テレビもどのチャンネルも映らなくて、唯一ラジオだけが放送をしているらしい。だけど、どのラジオ局も「現在状況を調査中です。しばらくお待ちください」と繰り返すだけだった。
「わかりました。それじゃ、わたしがちょっとワカを
そっけなく楓が言うと、クラスのみんながどよめく。
「ええっ!」
「楓ちゃん、わかるの?」優里だった。
「どうかな……」楓は苦笑いしながら応える。「わかんないかもしれないけど、とりあえずノートブックとワカをつないでみるね。確かケーブルが……」
しばらく楓はランドセルの中をまさぐっていたが、やがて、
「ああ、あった」
と声を上げて何かを取り出す。それはスマホの充電ケーブルだった。ノートブックの充電にも使えるし、それを使ってスマホとノートブックをつなげば、データ通信もできる。
楓はノートブックの電源ケーブルを外し、その代わりに充電ケーブルの一方の端子を取り付ける。そして、ワカの後頭部にある2センチメートル四方くらいの小さなパネルを開いた。
そこにはスマホのそれと同じ形の充電ソケットがある。何度もワカが充電する姿を見ているので、クラスの全員がそこに充電ソケットがあることを知っていた。彼女は自分のノートブックにつないだケーブルのもう一方の端子を、そのソケットに差し込んむ。
「……」
テキパキと作業する楓の様子を、クラスメイトたちはただポカンとした顔で見送ることしかできなかった。
やがて。
「……え、うそ!」
突然、楓がケーブルを勢いよくノートブックから引き抜く。
「どうした?」
瑛太が楓の顔をのぞき込むと、そこには驚きとあせりの表情が浮かんでいた。
「セキュリティアプリが反応した……わたしのノート、ワカからハッキングされたみたい……」
「ええええっ!」
その場の全員が、大声を上げる。
「それじゃ……ワカはハッカーロボット、ってこと?」
瑛太が言った瞬間。
「そんなはずないよ!」
絵里香が席を立って叫んだ。
「ワカが悪いハッカーだなんて……そんなこと、絶対にないよ……だって、ワカは武もピョン太も助けてくれた、やさしいロボットじゃない……だから……ハッカーなんてこと……絶対にありえない……」
だんだん絵里香は涙声になっていった。
「わたしもそう思う。でもね」楓がメガネを冷たく光らせる。「ハッキングされたのは、本当だから。だけど、ひょっとしたら……」
「ひょっとしたら……なによ……」手で涙を拭きながら、絵里香。
「ワカが倒れたの、5Gにつないだ時だった。学校のネットワークは、ルータっていう機械を通してインターネットにつながるようになってるけど、5Gはそうじゃなくて直接インターネットにつながるの。だから……ひょっとしたらそのときに、ハッキングされたのかもしれない。それで今、ワカの頭脳がハッカーに乗っ取られているのかも……」
「……」
教室の中が、一気に静まりかえる。瑛太は鳥肌が立つのを感じていた。楓が言うようなことが、本当に起こるものなんだろうか。彼にはとても信じられなかった。
いや、待てよ……
瑛太は思いつく。今ネットにつながらないのも、ひょっとしてそれが原因なのかもしれない。たぶん、ハッキングされたのはワカだけじゃないのかも。他にもいろんな機械がハッキングされておかしくなって、それでネットが大混乱になっているんじゃ……
「どっちにしても」楓が悔しそうに目を伏せる。「これはわたしの手には負えない。サービスセンターの人たちに来てもらうしか、ないと思う」
「……」
誰も口を開こうとしなかった。静まり返った教室の中に、ただ絵里香がグスングスンと鼻を鳴らす音だけが響いていた。
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