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山ノ中小学校は、始業式の日でも普通に授業がある。これは、冬になると学校がある山ノ中町に大雪が降るので、冬休みを長く取っているからだ。それでも6時間目が終われば下校時間。なのに、今日は誰も帰ろうとしていなかった。みんなワカの机の周りに集まっていたのだ。
ワカに近い場所にいるのは、いわゆる「一軍」メンバーだった。そして、その一軍メンバーの後ろから、一軍以外の子どもたちがおずおずと取り囲んでいる。瑛太は一軍メンバーともそうじゃないメンバーとも分け
その反対に楓は一軍メンバーとそれほど仲がいいわけではないのだが、ワカの隣の席であるため、いっしょに囲まれてしまい動こうにも動けなかった。だけど彼女もみんなと同じようにワカに興味があったので、その場を離れるつもりもなかった。
「ねえねえ、あなたはなんでワカって言うの?」
「ええ。ワタシは英語の
「そうなんだ。それじゃ、ワカは働きものなんだね?」
そう言ったのは、クラス一の美男子、
「ええ。働きものになる予定です」
「すごいなあ。さすがロボットだね。それで……こんなこと聞いていいのかわからないけど……」
なぜか光宙の言葉の歯切れが悪くなる。
「ワカは……女子なの? 男子なの?」
「ワタシはロボットです。どちらでもありません」
「え……ってことは、LGBTQで言えば、Qなの?」
以前、総合学習の時間に若村先生がジェンダーについて説明したことがあった。その時にみんなはLGBTQについて学んだのだ。
「そうですね。一番近いのはそれかもしれません」
「ワカはご飯を食べるの?」
そう聞いたのは、ちょっぴりふくよかな体の男子、
「人間のご飯は食べられませんが、一度フル充電すればだいたい2時間は動けます」
「ノートブックかよ! いや、ノートブックよりも電池もたないじゃん」
武のツッコミにみんなが笑った、その時だった。
「コラ!」
ガラガラと戸が開いて、若村先生が入ってきた。
「君たち、早く帰らないとお父さんお母さんが心配するよ! ワカさんとは明日も会えるんだから、今日はこれくらいにして帰りなさい!」
「はーい……」
誰の返事もイヤイヤながらなのが明らかだった。
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「ねえ、瑛太」
帰り道。楓が何かを考えているような顔で言う。
「ん?」
隣を歩く彼女に、瑛太は視線を投げた。二人は家が近所なので、昔からいっしょに登下校することが多かったのだ。
「あのワカってロボット……結構すごい性能っぽいね」
「分かるのか?」
「うん。受け答えが早いし、的外れなことも言ってない。ネット上の大きなコンピュータで処理してたら、質問にあんなに速く答えられないと思う。たぶん、内蔵のコンピュータもかなり高性能……じゃないかな」
「……」
今さらながら、瑛太は楓の分析に舌を巻いていた。コンピュータやネットワークについては、おそらく彼女は下手な大人以上に知識がある。とてもかなわない、と彼は思う。
だけど。
「そうだね。確かに、関節はサーボモーターじゃなくて人間と同じように何か筋肉的なアクチュエーターで動かしてるみたいだし、最初はあまりうまく歩けないみたいだったけど、帰り際には少し歩き方が滑らかになっていたから、制御技術もかなりのものだと思う」
そう。瑛太も、メカや電子機器については大人以上に詳しいのだった。だけど、こんな会話をクラスのみんなに聞かれたらドン引きされるのは間違いないので、二人っきりの時以外はしないようにしている。
「友達に……なれるかな」
「……」
ポツリともらした楓のつぶやきに、思わず瑛太は考え込んでしまう。そもそも、彼が人間型のロボットに出会ったのは今日が初めてなのだ。みんなとワカの会話を横で聞いていたけど、やはりワカは人間とどこか違うような気がしてならない。友達……なんて関係に、なれるものなんだろうか。
だけど……
ワカはとても素直だ。質問にはちゃんと答えてくれるし、意地悪な雰囲気もない。いいヤツか悪いヤツか、と言えば、どう考えてもいいヤツだろう。
「そうだな」ほほ笑みながら、瑛太が言う。「ぼくもワカはいいヤツだと思うし、友達になれるのならなりたいよな」
「だよね」楓も笑顔を返した。
いつのまにか、二人は家の近所にたどり着いていた。
「それじゃ、楓、またな」
「うん。瑛太、また明日」
二人は互いに手を振り、自分たちの家に向かう。
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