ナメラスジ
きみどり
ナメラスジ
子供の頃って、今思うと変なものが怖かったりしませんでしたか?
私の場合は豆球でした。夜寝る時、つけたままにしておくアレです。正式には常夜灯と言うみたいですね。
電気を消して、真っ暗な中で寝れば大丈夫でした。でも、あのオレンジ色の灯りがついていると、ダメだったんです。いつも同じ夢を見ました。
そこは土手の上でした。まっすぐな道がどこまでも続いていて、両側は草の生えた斜面になっていました。
それだけなら怖くないのですが、空がどす黒いオレンジ色をしていたんです。まるで夕焼けに雨雲が混ざっているみたいで、道も、草の斜面も、空気さえもその色に染め上げられていました。
そんな異様な空間を、私は歩き始めます。
道の両側にはお祭りの屋台がまばらにたっていました。店の中に人はいません。
誰もいない道を私は一人きりで歩いていきます。
するとそのうち、前方からあるものがふらふら歩いてきます。両手を前につきだし、一歩一歩揺れながら歩いてくるそれは、まるでゾンビでした。
腐ったり唸ったりはしていません。でも、生気のないソレは一体ではなく男も女もいて、統率なく歩いてきます。
景色と同じくオレンジ色に染められているソレは、顔側は逆光の黒色に塗りつぶされていて、よく見えませんでした。
とにかく怖くて。ソレが襲いかかってくることはないのですが、私は屋台の影に息を殺して隠れ、とにかく必死にやり過ごそうとしました。
土手からおりれば良いのでは? と思われるかもしれません。でも、そこは夢。私は一本道を進むしかありませんでした。
それに、土手の下はなぜだか見えません。その夢の世界は、土手の上にしかないのです。
恐怖のあまり目を覚ますこともありました。しかし、眠ると再びその夢を見ることもしばしばでした。
まさに悪夢でした。
ところが、ある日のことです。
またオレンジ色の世界に迷い込んだ私は、ハッと気づきました。「そうだ。これは夢だ。起きればいいんだ」と。
夢の中で、自分が今夢の中にいることを自覚した私は、自分の意思で夢から目覚めました。すると、それからは常夜灯がついていても、この悪夢を見ることはなくなりました。
あの不気味な世界は何だったのでしょうか。単に常夜灯のオレンジが見せたのか、自分の精神的な何らかの表れだったのか、それとも。
今でもオレンジ色の常夜灯を見ると、不安な気持ちがよぎります。でも、あの世界から脱出する方法を手に入れた私は、もうあの世界に呼ばれなくなりました。
ナメラスジ きみどり @kimid0r1
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