第6話

私の叫びを聞いて、おもむろに晴季せいきが私から離れる。

「……ねぇ」

晴季が私に話しかけてくる。

何を話したいのかは知らないが、深刻そうだと思い、

片手で晴季を制して、

「お願い、一回出て行って」

と、3人の兄貴に向かって言う。

兄貴たちは不服そうにしながらも、言うことを聞いて出て行ってくれた。

「で、何言いたいの」

目の前にいる男に問いかける。

「…ほんと…なの、?」

すると、晴季がそう聞いて来た。

ほんとなの?って何がほんとなの?何が聞きたいん?

「いや何が?」

そう聞く。

すると晴季が口を開く。

「俺のことが大っ嫌いって、ほんと、なの?」

いつもとは違った口調で聞いてくる。

だけど、そんなの関係ない。

私は、この波郷晴季なみさとせいきという目の前にいる男が、

世界で一番嫌いなのだ。

「うん、大っ嫌い。世界で一番」

きっぱりと告げる。

「…そう、なんだ」

晴季に、

「うん、そうだよ」

と、私も答える。

「……昔、さ」

「……うん」

晴季は何を言おうとしてるの?

「小学校の頃、俺のこと嫌いじゃなかったじゃん」

「う、ん、そうだったね」

確かにそれはそうだ。

私は小学校の頃は、私に寄り添ってくれた晴季が、嫌いじゃなかった。

むしろ、大好きだった。

「なんで、嫌いになったの?俺、なんかした?」

わ、からない。

母親に言われて、こっちの中学に転入するって聞いた時、

むしろ、

晴季がいるんだって、

喜んだ覚えがある。

嫌いじゃなかった。

でも、転入して晴季を見た瞬間、大嫌いになった。

それは、なんでなんだろう?

私自身も、わからない。

「…わからない。ただ、晴季を見たら、嫌いになった。なんか昔の、私の記憶にある晴季とすごく変わってて……。それに、急にイケメンになって、背も伸びてるし……。あの頃の晴季は、背が小さいのがコンプレックスだったのに、背が高くなってるから…コンプレックスがないじゃん……。私は、ブスになったのに……。背が止まってるのに……。なんで晴季だけ、変わってるの?なんで、晴季が人気者になってるの……」

当時の、晴季を見た時思ったことを、覚えていることは全て口に出した。

それを聞いて、晴季は、考え込んで、

そして口を開いた。

「それって、さ…。俺のこと、嫌いなんじゃなくて…。俺のこと、羨ましかったんじゃね?」

急に何を言い出すのか。

違うに決まってる!

反論しようとして、でも、私は口を閉じた。

確かに、そうかもしれない。

自分にないものを持っていて、

かっこよく成長して、私とは真反対になっている。

そんな晴季を見て、多分羨ましかったんだ。

私は晴季が、嫌いじゃなかったんだ……。

「俺は頭悪いし、何言うべきか分かんないけどさ。ゆきは十分頑張ってるよ。努力してるよ。好かれるようにずっと7年間以上、頑張って来たんじゃん。十分好かれる人間になってるよ。だから、俺みたいな成績悪い奴を羨ましく思う必要なんてない。それに、ゆきはブスじゃないよ。顔面偏差値測って見なよ。きっと高いよ。結構野球部の奴らもゆきに片想いしてるんだけどね?気づいてないだろうけど」

晴季は、変わってない。

私みたいに変人で、クソでゴミみたいな奴に、優しくしてくれる。

彼は、優しいまま、ずっと変わってなかった。

外見はすっごく変わったけど。

「ゆきは、もう十分頑張ったんだよ。これ以上、頑張る必要ない。それに、もしクラスでいじめられるんだったら、俺が飛んでって、そいつら全員ぶっ飛ばしてやるからさ。安心しなよ」

晴季が私を呼ぶたびに、心が少しずつ温まって行く。

ゆき。

私の英語の名前。

晴季だけが読んでくれる、私の名前。

まるで宝物みたいだ。

「それにね、俺さ」

晴季が続ける。

「お前のこと、結構好きだよ」

友情の意味だってわかっているけど。

人から好かれたことがあまりない私は、嬉しくて。

泣いてしまった。

側で、晴季が頭を撫でてくれる。

晴季は、優しい空間を作り上げてくれた。

そこで、私は晴季の変わらない優しさに触れて、

ずっと泣いていた。


うちのバカ兄貴たちが、

この雰囲気をぶち壊すまでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも君は、私の光だから。 みずき @mizukipiano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ