エピローグ
○
統一王国の国王の側近くに仕える近衛騎士に、クーンズ伯爵ハヴェルという人物がいる。
この人物は剣術の達人であり、その技は亡霊から薫陶を受けて身につけたものと噂されている。また、無数の亡霊を従え、この亡霊からなる兵団の指揮官であるとも言われる。
だが、すべては噂の域を出ない。
近衛騎士にそのような素性のものがいるわけがない、というものもいれば、そのような素性のものこそ近衛騎士にふさわしい、というものもいる。
クーンズ伯爵の領地は統一王国の西部にある狭い範囲だが、その中に一つの山がある。
その山ではつい最近まで、山にいるという神に人間を生贄として差し出す風習があった。それは統一王の意向で禁止されたそうだ。
クーンズ伯爵ハヴェルは、この山で剣術を学んだという話もある。
剣術の修行云々よりその山、ルセス山には昔からある風説がかなり真実性のある話として、近隣に聞こえている。
曰く、ルセス山は、一度入ると二度と出ることはできず、山の中では肉体を失った亡者が無数に彷徨っているという。
近隣のものがそう言って踏み込もうとしないルセス山を領地に持つクーンズ伯爵が、亡霊から剣術を教わったというのも、不思議な符号ではある。
いずれにせよ、クーンズ伯爵ハヴェルという人物は実在し、大層な剣の使い手だということだ。
(了)
クーンズ伯爵ハヴェルの受難 和泉茉樹 @idumimaki
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