第43話 祭り

 夕暮れ時、待ち合わせの時間が迫る中、俺は少し緊張した面持ちで祭りの会場近くの広場に立っていた。

 さっきまで何度も確認したスマホの時計を見ては、字見さんが来るのを待っていた。


 空はまだ明るく、日が完全に沈むには少し時間があるが、辺りにはすでに祭りの雰囲気が漂い始めていた。

 周囲から祭りに誘うように美味しそうな匂いや、楽しそうに笑う子どもたちの声が聞こえる。それが俺の緊張を煽る。


 今日は告白する予定だ、ということが心の中で大きな波のように押し寄せてくる。


「やばいな、緊張しすぎだろ俺…」


 そう心の中で独り言を呟きながら、周りを見回していると、小走りでこちらに向かってくる字見さんの姿が目に入った。


「悠斗くん!ごめん、ちょっと遅れちゃった」


 息を切らしながら、少し赤らんだ顔で彼女は俺に話しかける。

 普段冷静な彼女が、こんな風に慌てる姿は新鮮だ。


「いや、全然大丈夫だよ。俺も来たばかりだし」


 そう言いながら、自然と目が彼女の浴衣姿に引き寄せられる。淡い水色の浴衣に、白い花模様が散りばめられていて、すごく爽やかな印象だ。

 髪を少し上げてまとめたことで、いつもと違う雰囲気を醸し出していて、それがまた俺の胸を高鳴らせる。


「すごく似合ってるよ、浴衣」


 そう褒めると、字見さんは少し照れたように笑って答える。


「あ、ありがとう。浴衣なんて普段着ないから、少し恥ずかしいけど…」


「いや、本当に似合ってる。綺麗だよ」


 字見さんはさらに頬を赤く染めた。

 俺も自分で褒め言葉が少しストレートすぎたかなと思いつつ、それ以上に彼女の笑顔に心が和んだ。


「じゃあ、行こっか」俺が言うと、彼女はうなずいて微笑みながら「うん」と返してくれた。

 並んで歩き始めると、周りの賑やかさがさらに感じられて、祭り独特の雰囲気が2人を包み込んだ。


 しばらく歩いていると、彼女がふと口を開いた。


「悠斗くんから誘ってもらえて嬉しかったよ。誰かと祭りに行くなんて久しぶりだから」


「そうなのか?俺も、誰かと祭りに行くのは久しぶりだな。せっかくの祭りだし、1人で行くのもアレだしなって思って誘ったんだ」


「うん、でもまさか2人きりで行くとは思わなかったから、ちょっとびっくりしたよ」


 彼女は少し笑いながら、俺の方を見た。


「まあ、たまには2人で行くのもいいかなって思って」


 軽く返したつもりだったが、内心では手の汗がじわりと滲んでいた。

 何気ない会話の中でも、字見さんとの距離が少しずつ縮まっていることを感じている。


 話しながら歩いていると、何度か彼女と手がぶつかりそうになる。その度に、心臓がドキリと跳ねる感覚があった。

 俺はその感覚に勇気をもらい、思い切って彼女の手を取った。


 字見さんは一瞬びくっと反応したけど、特に嫌がる素振りは見せなかった。むしろ、俺の手を握り返してくれている気がする。

 人混みの中、俺たちは手をつないだまま歩き続けた。


「人が多いから、はぐれないように」俺が言うと、彼女は笑いながら「優しいね」と言ってくれた。

 その言葉に少し照れくさくなったけど、手の温もりを感じながら、これまでにない時間を過ごしていることを実感した。


「暑いし、かき氷でも食べるか?」


 しばらく歩いた後、俺は近くのかき氷屋台を見つけて提案した。


「うん、食べたい!」


 字見さんが目を輝かせて答えたので、俺たちはそれぞれ好きな味を選ぶことにした。

 俺はメロン味、字見さんはブルーハワイを選んだ。


 屋台近くの椅子に座り、かき氷を食べ始める。冷たい氷が口の中に広がると、少し火照っていた体が一気に冷やされていく。

 だけど、その後すぐに頭がキーンと痛くなり、思わず「うっ」と声を上げてしまった。


 その様子を見ていた字見さんが、クスクスと笑っていた。


「悠斗くん、大丈夫?そんなに急いで食べなくてもいいのに」


「いや、暑くてさ、つい…」少し恥ずかしくなりながら答えると、字見さんが自分のかき氷を指さして言った。


「悠斗くんのも美味しそう。交換してみる?」


「あ、ありがとう。じゃあ、少しもらおうかな」


 自分のスプーンで食べようとしたが、字見さんはそのまま自分のスプーンを持ったままで、俺の方に差し出してきた。


「はい、あーん」


 彼女は冗談っぽく言いながら、スプーンを俺の口元に近づけてきた。


「え、え?」


「食べないの?」


「食べます!!」


 一瞬、どうするべきか迷ったけど、これを逃したら男としては失格だろう。

 俺は彼女の差し出すスプーンに口を開けて応じた。


「どう?」


 字見さんが笑いながら聞いてくる。


「うん、美味しい…でも、ちょっと緊張して味がよく分からないかも」


 本音を口にすると、彼女はさらに笑い声を上げた。


「ふふ、悠斗くん顔は赤いのに舌は青くなってるよ」


 字見さんが笑いながら指摘してくる。


「そういう字見さんも、青くなってるよ」


 俺も指摘し返すと、彼女は「ほんと?」と言いながら自分の舌をペロッと出して確認しようとした。


 その仕草が可愛くて、思わず笑ってしまう。そして、俺たちは自然と笑い合いながら、かき氷を食べ終わった。

 そんなささやかな時間が、楽しかった。


 それからも、俺たちは屋台を回りながら祭りを楽しんだ。


 金魚すくいの屋台では、字見さんが夢中になって挑戦する姿を横で眺め、彼女の集中力と楽しげな表情に見惚れてしまう。

 何度も金魚がすくえそうになるが、すぐにぽんと水面に戻ってしまう様子に、彼女は笑いながら「難しいね」と呟いた。


「俺もやってみようかな」


 そう言って、何度か挑戦するが全然うまくいかない。

 カッコいいところを見せようとしたが、ダメダメだった。


「ダメだった」


「よし、リベンジするよ」


 再び彼女が挑戦する姿を見ていると、なんだか2人でこうして楽しんでいる時間が特別に感じてきた。

 周りの喧騒はまるで消え去り、俺たちだけの世界にいるような気分だった。


 そして、少し休憩しようと提案して、近くにあるベンチに腰を下ろした。夜風が少しずつ冷たくなり、夏の夕方特有の涼しさが心地よい。

 空にはいよいよ、花火の時間が近づいているような雰囲気が漂ってきた。


「花火、楽しみだね」


 字見さんがポツリとつぶやいた。


「うん、俺も。実は、祭りの花火を最後までちゃんと見るのって久しぶりなんだ」


 花火より屋台を楽しむ人間だったから、花火自体が久しぶりだ。


「わたしも、久しぶりだな……昔は家族でよく見に来てたけど、最近は全然行けなくて」


 彼女の声には少し懐かしさが混じっていた。

 彼女も同じように、子どもの頃の思い出を思い出しているのかもしれない。


「あの頃は何も考えずにただ楽しんでたけど、今こうして悠斗くんと来れて、本当に嬉しいな」


 彼女の言葉に、俺の心はドキリとした。彼女にとってもこの時間が特別だということが伝わってきたからだ。


「俺もだよ。今日、一緒に来れて本当によかった」


 そう答えながら、俺はふと手を見つめた。

 まだ手を繋いだままの温もりが、今でもしっかりと感じられていた。


「なんか、緊張してる?」


「え、いや……まあ、少しだけ」


 正直に答えると、彼女は笑った。


「でも、それもいいよね。緊張するくらい大事なことって、そうそうないから」


 彼女の言葉には、どこか安心感があった。

 俺の緊張を解いてくれるような、その笑顔が好きだと思った瞬間、遠くで花火の準備を知らせる大きな音が響いた。


「もうすぐ始まるね。場所、探そうか」


 俺は彼女に提案して、2人で花火を見るための少し開けた場所を探し始めた。

 人気の少ない小高い丘の上にちょうど良いスペースを見つけ、俺たちはそこで腰を下ろした。


 夜風が吹く中、空はすっかり暗くなり、辺りは花火を待つ人々の期待で満ちていた。少し肌寒さを感じながら、俺は字見さんの隣に座って空を見上げた。

 彼女もまた、どこか静かな表情で空を見つめていた。どんな思いを抱えているのか、ふと気になった。


「なんだか、静かだね」


「うん、でも、こういう静けさも悪くないと思う」


 俺は彼女の横顔を見ながら答えた。

 彼女がいてくれるこの時間が、本当に心地よくて、言葉がいらないくらいだった。


 そして、ついに第一発目の花火が打ち上げられた。大きな音と共に夜空に広がる色鮮やかな光の花。

 それはまるで、俺たちの心の中にある何かを象徴しているかのように、壮大で美しかった。


「わあ…」


 字見さんが驚いたように感嘆の声を漏らす。


 俺もまた、その光景に圧倒されながら、彼女の横顔をチラリと見た。光に照らされた彼女の表情は、どこか神秘的で、いつも以上に魅力的に見えた。

 その瞬間、俺は確信した。この瞬間こそが告白のタイミングだと。


 鼓動が高鳴る中、言葉を紡ぐ勇気を振り絞ろうとしていたが、思ったよりも声が震えてしまいそうで、息を整えるのに精一杯だった。

 だが、花火の音が続く中で、何度も心の中でリハーサルした言葉が、徐々に口からこぼれ落ちそうになっていた。


「字見さん!!」


「ん、どうしたの?」


「大切な話があります!!」


 ―――


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地味子は隠れ巨乳!?地味だと思っていた彼女は巨乳で可愛い ゆずしお @yuzusio299

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