第5話 盤上遊戯
座している
「これは
目の前で広げられる
「博は遊戯でもあり、占いでもある。お前のこれからを賭けるにちょうどいいだろう」
顎をなでながら、楚王がくつくつと笑う。禽獣が獲物を嬲る目つきに似ていた。
「……賭博はほどほどが良いと、
荀罃は、虚勢で以て返した。また、多少の本音もある。質実な育ちの荀罃は賭け事を軽蔑している。
盤上遊戯。博とも
荀罃の目の前で並べられた盤は、正方形である。中央にやはり正方形の『
二人にはそれぞれ六つの
布の上には、盤と駒のみで、肝心の
しかし、重ねて言うが箸がない。荀罃の戸惑いに合わせたように、楚王が何かを放り投げた。それはころころと床を転がっていく。
「箸も良いが、俺は占いより遊戯を好む。これを使う」
「
床に転がるは十四面のサイコロである。手にとって見ると、一から十二の数字がある。あと二つは、白、黒と書いてある。荀罃は己と楚王の駒を見比べる。楚王の駒は黒く、己の駒は白い。
「この白と黒は」
「白が出ればお前が酒を飲み、黒が出れば俺が酒を飲む。それだけだ。遊戯の決着がついていなくても潰れた方が負けだな」
荀罃は思わずサイコロを取り落とした。床をコロコロと転がり、暗示のように『白』が出る。
「これは、私が
最後に吐き捨てるように言うと、荀罃は肩をいからすような姿勢で睨み付ける。己は確かに未熟であり、なおかつ捕虜である。しかし、そこまで軽く扱われる筋合いは無いと、怒鳴りたくもなった。
楚王はサイコロをつまむと、持ってこさせた青銅の碗に軽く落とした。チリンリンと澄んだ金属音が響く。楚王はその碗をつかみ、荀罃に突き出した。
「人の生は戯れのようなものだ。天に翻弄され、人に良いようにされる。己の力で切り開くなど狂人の行い。お前も俺もその狂人だ。狂人というものは阿呆のように踊り、戯れに生きている。戯れが嫌なら愚人として贄となれ。お前が狂人であれば、俺と踊り戯れ己の先行きを占え」
挑むように笑い、布の上に碗を置くと、楚王は返事も聞かずに手で指図した。小者たちが、
十四面のサイコロは、象牙でできていた。なかなかに高価であるが、しかしたかがサイコロである。博は、出目に極めて左右される、運任せの遊戯である。
己の命は賽の目次第――。荀罃は、深く息を吸って吐いた。
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