4.

きっと、これが終わりじゃない。

震える手で、何度も携帯の時計を見ていた。杏香がどこにいるか、茉莉は分からないから、いつここにつくのかも分からない。正座をして杏香を待つ。時間が、怖くて仕方なかった。秒針に押し潰されてしまいそうだ。


まだか、まだかと待っていると、不意に扉が開く。心臓が跳ねて口から出てきてしまいそうになった。

息を荒らげ、髪を乱した杏香が、走ってきたことは火を見るより明らかだった。

それが、愛おしくて堪らなかったのだ。気付いた時には、もう、杏香に抱き着いていた。


「ごめんなさい!本当はあんなこと思ってないの、君と別れたくない。一緒に居たい、ずっと一緒がいい…っ!」


強く強く、力の限り抱きしめて、思いの丈を吐き出した。涙が溢れる。──彼女の手が、私の背中に回されるまで、は。


「私も別れたくないよ、」


彼女の小さな声に、死んでもいいと、切に思った。私の涙も、一瞬止まったけれど、嬉しくてまた溢れてきてしまった。

それはどうやら、杏香も同じらしい。


あんな酷いことを言って傷付けてしまったことは、きっとこの先も許されはしないだろう。それでも、この冷えた手が、また彼女の心に触れられるのならば。


「私たち、真逆だからいいんじゃない。だからさ、この先も一緒に居たいよ。」


杏香の優しい笑顔に、心が溶かされる。


この先もきっと、愛し合えるさ。と私達は、温く霞んだ部屋の中、抱き合っていた。この先もずっと、二人で在れるように。愛は、ここに居続ける。

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それでも、この冷えた手が 津島 @tushima_14

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