第10話 王都へ

 街を出てから4日目。2日目以降は特に何もなく王都への道を進んでいる。盗賊関連で予定より1日遅れてしまったが、シャルやギルバートさんと出会えたきっかけである。不思議と気持ちは晴れやかだ。


「そういえば、シモンは学園が始まるまでどうやって時間を潰すつもりなの? まだ1週間以上あるわよ?」

「この4日間勉強が出来なかったから、図書館にでも篭ろうと思ってるよ。話によると学園の図書館は新入生でも使えるらしいから」


 というより、勉強する道具も何も無いので、図書館に行く以外勉強が出来ないという方が正確だ。ここで悪態をついても意味はないのだが、つくづく父はケチだと思う。父からしてみれば、そんな環境でもエリクより勉強ができる僕が気に食わないのだろうけど。


「実技なら得意なのだけど、勉強はあんまり得意じゃないのよね。もし、私が図書館に行ったら教えてくれる?」

「勉強を教えるのは良いけど、僕もそんなに得意じゃないから期待しないでね」


 貴族の子供は学園に入り、勉学に励む権利がある。入学に際して制限はないものの、生徒の能力を見る為に形式的に入学試験が存在する。言ってしまえば振り分け試験だ。A~Dまでクラスがあり、1番上のクラスがA。1番下がDクラスとなっている。勿論クラスが高ければ良い職業につきやすくなるし、貴族としても評価される。僕の場合、学園を卒業すると実質的に平民になるのでこの試験はかなり重要である。


「あ! あれが王都じゃない?」


 シャルが窓の外を覗き、興奮した様子で声を上げる。僕も外を覗くと、今まで平野しかなかった景色に大きな外壁が見えた。辺境の都市も大きいと聞いていたが、王都もかなり大きいのだろう。何より外壁が高く、流石国の中枢を司るだけはある。

 流石と言うべきか、王都の中へはすんなりと入ることが出来た。本来であれば色々手続きなどがある筈なのだが、ユンベルト辺境伯さまさまである。移動に関しても、馬車は快適だったし夜もしっかり寝ることが出来た。きっかけは最悪だったが、有難い話だ。


「シモンはもう学園の寮に行くのでしょう? 本当はもう少し一緒に居たかったのだけど、ここで一旦お別れね」

「シャルにそう言って貰えて光栄だね。僕も名残惜しいよ」


 そう言葉を交わして僕はシャル達と別れた。本当は何かお礼がしたかったけど、今の僕に自由に出来るお金はない。何かあれば、またその時にお返しをしたいと思う。


「色々あったけど、無事に王都につけて何よりだね」

「仰る通りですな。私1人では難しかったでしょう。シモン様に感謝せねば」

「運が良かっただけだよ。殆どシャルの家の力だし」

「運も実力の内です。学園の寮に行くのは良いとして、その後はどうするおつもりで?」


 恐らく、学園の寮に入るのは問題無いだろう。そこら辺は唯一、父を信頼出来る。この後の予定だが、コームにも少し手伝って貰う。


「冒険者ギルドに登録しようと思ってるよ。シャルが言うには、小遣い稼ぎには丁度良いらしいから。それに、魔物とも戦ってみたいしね」

「確かに冒険者であれば、幾らか自由に出来るお金ができそうですな」

「そうそう、けど流石に1人で行くのは怖いからね。コームにも着いてきて欲しい」

「そういう事であれば喜んでお受けしましょう」


 シャルから貰った地図を見ると冒険者ギルドは学園の手前にあるようで、先に冒険者ギルドに寄ることにした。とは言っても、登録をするだけである。何も無いことを祈ろう。


 地図を見ながら移動すると、周りの建物と比べてもそこそこに大きい建物がそこにはあった。防具を着ている男達がそこを出入りしているおり、ここが冒険者ギルドで間違いないだろう。中へ入ると幾つかの受付があり、酒場と併設されている。異世界モノでお馴染みの冒険者ギルドといった所か。今は昼過ぎなので、あまり人はいないようだ。それでも酔っ払いはチラホラ見えるので、コームを連れて来て良かったと思う。


「こんにちは。冒険者に登録をしたいのですが、こちらで受付は大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。身分を証明出来る物はお持ちですか?」

「これでお願いします」


 シャルから事前に何が必要かは聞いていたので、自分が貴族であるという証明であるレリーフの写しを差し出す。受付嬢は少し驚いた様子で紋章を確認する。恐らく付き人がコームしかいなかったので、貴族だとは思わなかったのだろう。


「フォール伯爵家様の紋章ですね、ご子息様で宜しかったでしょうか」

「ああ、そうだよ。登録は出来そう?」

「問題ありません。それではこちらのカードにお名前と、血を1滴垂らして下さい」


 どうやら登録は出来そうだ。受付嬢の指示通り、名前と血を1滴カードへ垂らす。するとカードが光り、魔法とスキルのステータスが表示された。これも事前にシャルから話を聞いていたので驚きはしないが、原理は全くの謎である。


「これで冒険者ギルドへの登録は終了しました。カードを拝見させて頂きますね。⋯⋯流石貴族様ですね、魔力は出力以外B以上。スキル関しても剣術Bですか。このステータスであればE級は免除で良さそうですね。王都へは学園に?」

「ええ」

「そうですか⋯⋯、専業であればすぐにC級に上がれるでしょうし残念です。あっ! いえ、学園が悪いという訳ではなく、人材として惜しいというだけでして」

「大丈夫ですよ。僕は気にしませんから」


 平民上がりでも強い冒険者はいるが、冒険者全体で見ると数は少ない。王都周辺であっても開拓出来てない場所はあり、そこからB級以上の魔物が出ることも少なくないだろう。そこで貴族出身の即戦力が仲間になれば、心強いだろうし期待もする。


「ありがとうございます。えっと、冒険者についての説明をさせて頂きますね。まず、ランクはE級からA級まであり、それぞれが単独で各級の魔物を倒すことが基準となっています。ただこれはソロでの話で、パーティであってもパーティで各級の魔物を倒すことがパーティランクの指標となります。なのでA級パーティは比較的多いですが、A級冒険者は極端に少ないです。学業の傍らでしたらソロでの活動が多くなると思いますので、C級までが現実的な目標になります。くれぐれも無理のない行動を心掛けて下さい」


 A級指定の魔物は、街に甚大な被害を及ぼすことの出来る魔物が指定される。それを単独で倒すことが出来る人間が、そうそういる訳がない。そもそも、基本的にパーティを組むのが冒険者はマストだ。C級だけであれば今の僕でも倒せるだろうが、討伐する以外にも移動の手間があるし、荷物の問題もある。それらを考えれば、パーティで行動する方がリスクを分散出来る。


「依頼や討伐に関しては、受付で私達共に受注させて頂いてから行って頂きます。他にも細々とした規定はありますが、殆どがいざこざを解決する為の規定なので気にしなくても大丈夫です。説明はこれにて終わりになりますが、何か質問等はありますか?」

「特にないかな。まだ依頼をする気はないし、今日はもう失礼するよ」


 そう言ってギルドから出る。まだ学園に正式に入学した訳ではないので、それまでは怪我もしたくないし勉強に専念したい。当分はここに来ることも無いだろう。

 冒険者もただ酔っ払っているだけで、特に絡んでくる様子はなかった。人が少ないというのも有るのだろうが、面倒がないのはいい事である。異世界モノだと冒険者ギルドでのいざこざはお約束だったので少し肩透かしを受けた気分だ。

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