④

 翌日、アツジとマブリは別の基地に移動した。キヨミズが直々に平べったい自動車で送って行った。隣町のバス停までかそれともTAB‐7までエスコートしたのかは知らない。僕はランニングコースを三周したところで、彼らの車とフェンス越しにすれ違っただけだからだ。

 敬礼したけれど、応えてくれたのは後部座席に座っていたアツジとマブリだけで、たぶんキヨミズは気づかなかった。それくらい慌ただしい出立だった。

 その日は牽引機やトラックに乗せられた飛行機、それに車に詰め込まれたパイロットたちが列をなして基地を出ていった。蟻の行列みたいなそれを横から蹴り飛ばして無茶苦茶にしてやりたい衝動にかられたけれど、実行に移すにはあまりにも僕のスニーカーは小さかった。

 TAB‐9に残ったパイロットは僕を含めて十六人で、結局あの作戦の前と同じ人数だった。でも、メンバーは総入れ替えだ。僕の同室者はイヂチって奴だったけれど、お互いに口も利かない仲だ。

 もっとも、娯楽室のトレーニングマシーンや格納庫で過ごす時間が増えたから不便はない。

 バンシーはシャッターが開いたままの二号格納庫に戻されて、アガヅマをリーダーとした三人の整備士のチームに取り囲まれていた。

 修理、というよりも改造しているのかもしれない。壊した覚えもない機銃が取り外されているのを見かけたりもした。スクーターのバンシーに描かれた撃墜マークが増えていないところを見るに、本当に改修計画を全部キヨミズに伝えて許可を貰ったのだろう。

 だからアガヅマに「改修計画書を見せて」とは言わなかった。アガヅマの腕を信用しているっていうのが一番の理由だけれど、それ以上に個人的な興味があったんだ。

 バンシーがどこまで空になじめるのか。

 飛行機なんて所詮は金属の塊だ。鳥や昆虫みたいに空を飛ぶには重すぎる。そこに人間まで乗りこむんだから、もう浮き上がること自体が魔法だと思う。

 最初に飛行機を考えついた人は天才だ。

 それで殺し合おうなんて考えた人間は、たぶんイカレてる。

 でも、おかげで僕は彼女に再会できた。

 空に上がればもう一度彼女に会える。一緒に踊れる。たったそれだけの希望を抱いて飛行機に乗り込む僕が一番、正気じゃないのかもしれない。

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