87 金玉は恐ろしい試練に立ち向かうのこと

 さて夕食のはじまりである。

 悦蛇えっだと金玉は隣り合わせに、申陽はその向かいに台の上に座って、それぞれ豪華なお膳を前にしている。


「ちゃんと人間用だよ」

 ふだん悦蛇は、洞庭湖のプランクトンをこして食べていたが、人間用の食事が必要だろうと用意させたのだ。


「わあ、ありがとうございます」

 それは蛯名がつくったもので、一流シェフ並みに美味しかった。


 いま田楽は、ウェディングプランナーとの打ち合わせにバタバタ忙しくしている。


 さて夕食が進み、男二人が酒を飲みはじめた頃、申陽は悦蛇にこう尋ねた。


「ところで、金玉さまは本当にふたなりなのですか?」

「うん、そうだよ」

 悦蛇は、田楽が集めてきた金玉のカルテを見ていた。


「ご自分でお確かめになったので?」

「い、いや、そんなんじゃないけど」

 悦蛇はエッチな空想をして、頬を赤らめた。


「それは危ういですなあ。結婚は一大事のこと。もし間違った人と結婚してしまったら、とり返しがつきませんよ」

 申陽は、丁寧かつ、妙に含みがあるような調子で話した。


「それはそうだけど、裸になってもらうわけにもいかないし」


「おお、それはいいアイデアではないですか。金玉どのに、今、脱いでもらえばいいのでは?」

 ここは個室だが、夕食の席である……さらに申陽は言う。


「金玉さま、どうしました? 恥ずかしいのですか?」

 ――金玉は「恥ずかしいといってはいけない」という誓いを思い出した。


「そ、そんなことないよっ!」

「では脱げますか」

「も、もちろんだよ! 悦蛇さま、ぼくは本当にふたなりなんです」


 金玉は立って、あっという間に一糸まとわぬ姿になった。

 悦蛇は、あんぐりと口をあけている。


「ほう、これは見事なふたなりだ。これで悦蛇さまは、前も後ろも楽しめますな」

「ど、どういうことだい?」


「ですから、子作りするところと、後ろも楽しめるでしょうが」

「いや、べ、べつに僕はそんなことするつもりじゃ……」


「それはもったいない。せっかくのふたなりだというのに。

 私が後ろの楽しみ方を教えてあげましょう」


 そして申陽は、半刻はんとき(一時間)ばかりも、いかにそれが素晴らしいか、そのためにはどうすればいいかを滔々と語るのであった。


 ちなみにその間、金玉はずっと裸だった……。


「――というわけで、後ろを楽しむには、事前に十分に広げておく必要があるのですな」

「ま、まあ、理論はわかったよ」

 悦蛇は、申陽の気魄きはくに圧倒されっぱなしだった。


「理論の次は、実践です。よろしければ、私が手本を見せてあげましょう。

 なに、心配はいりません。私はこの通り医師ですし、みだらな心は何もありません」


「いいよ! さすがに、金玉ちゃんにそんなことをさせるわけには……」

「やはり恥ずかしいでしょうか?」

 申陽が、全裸の金玉を射抜くようにじろりと見た。


「は、恥ずかしくなんかないよ!」

「では、そこに四つん這いになってみてください」


 金玉はいわれた通りにする。

 申陽は護謨ゴム

 (護謨:妖怪世界の地底湖に住む魚。その腸は弾力性に富み、いろいろなものに加工されている)

 の手袋をつけ、さらに和合油わごうゆを金玉の後庭にたらした。


「ひっ」

「さあ、指を入れていきますよ」

「ま、待って!」


「恥ずかしいのですか? 犬のように四つん這いになって、秘所をさらけだして、男二人の前で棒状のものを入れられるのが? どうなんですか、金玉さま」


「は、恥ずかしくなんかないったら! さっさとやって……あうっ」


「こうやって、少しずつならしていくわけですな」

 金玉の秘密の庭に、申陽のごつごつした指が押し入ってくる……。


 さらにその指は、金玉の内奥を味わうように、蛇のごとくうごめいた。

 金玉はその未知なる感触に、唇をぎゅっとかんで耐えた。

 

「でも、指だけでは足りませんからな」

 申陽は手袋を外し、あらかじめ用意してきたカバンの中を、ごそごそさぐりはじめた。


「まずは細いものからはじめていきましょう。これがいちばん小さいサイズ(私物)ですね。そして慣れてきたら、大きくしていきましょう。これが男性の標準的なサイズのもの(私物)ですね。さらに効率的に拡張するためには、拘束具つきのもの(私物)があります。これならつけたままでも大丈夫ですよ。さらに他にも……」


 そのズラリと並べられた様子は、まさに一流の書家が筆にこだわるのごとくであった。


「いやあ……ここまでしなくちゃ、広がらないんですねえ」

 悦蛇は素人らしく、率直な感想をもらした。


「少しずつ広げていくのが、また楽しいのです。

 さあ金玉さま、いちばん細いのからはじめていきましょうか。もちろん恥ずかしくないですよね?」


 ところが……。


「い、痛い! 恥ずかしくないけど、無理、やめて」

 異様な状況下で緊張しきっているせいで、体に力が入っているのだろう。


「うーん、それは困りましたな……」

 申陽は焦った。まだ、ほんの序の口ではないか。


「え、えと、じゃあ、これでどう?」

 悦蛇は服の袖から、細めの黒ミミズのようなものをひゅっと出して、金玉に見せた。

 それは輿のなかで、自分の足首をつかんだものとよく似ていた。

 だが、あの時のものよりはだいぶん細い。


「大丈夫だよ。痛くないようにするから」

 その触手は、体表からぶわっと透明な液体をふいた。

 それは灯かりの下で、ぬらぬらとぬれそぼっている。


「な……なにっ?」

「金玉ちゃん、入れてみてもいい? 恥ずかしい?」


 思わず脅えた金玉だったが、気丈にふるまった。


「は、恥ずかしくなんかないですっ!」

「じゃあ、ちょっと我慢してね」

「んっ……」

 金玉は身をかたくしたが、そのぬらぬらは熱く、うぞうぞとうごめいていて、後庭がとろけてしまうように思えた。


「どう?」

「あ、ああっ……なんか、ヘンな気持ちです……悦蛇さまぁ……」

 金玉は熱に浮かされたように頭がぼうっとして、甘ったるい声を出した。


「さ、さすがは悦蛇さまですな!」

 しかし、申陽の手はワナワナと震えていた。

 目の前で愛しい人が後庭を――しかし、その状況をつくったのはまぎれもなく自分である。


「え、ええと、これを一週間、一刻いっこく(二時間)ずつ続けるんだっけ? そんなに長く?」


「まあ、今日は初めてですから、もういいのではありませんか」

 申陽は努めて冷静さをよそおいながら、言ったのだが……。


「悦蛇さま、ぼく、大丈夫です。恥ずかしくなんかないから! く、ください……」

 

 そういうわけで、地獄のようにおそろしい試練は続いていくのであった!

 

 *


「なんだよあれっ!」

 部屋に戻ってきた金玉は、怒りで寝台をぼふっと叩いた。


 悦蛇のぬるぬるが入れられたとたん、頭が真っ白になってしまったのだ。


 金玉は、自分がうわごとのようにいっていた「悦蛇さまぁ」「触手、気持ちいい」「もっと太くして」などの言葉を思い出して、羞恥に顔を赤らめた。


 ――あんな恥ずかしいこと……。

 だが、ハッと思い出した。

 恥ずかしいって、いっちゃいけないんだ。


 そういう話、よくあるよね。

 仙人さまが若者に「これから恐ろしい化け物がやってくるが、決して口を聞いてはならぬぞ」とかいうんだ。


「金玉……恐ろしい運命がやってきたピョン。もうぼくの力じゃ、金玉の童貞を守りきれないピョンよ。早く逃げたほうがいいピョン」

 兎児はぶるぶると震えている。


「兎児くん、もう言わないで。ぼく、申陽さんを信じるから!」


 そして金玉は、翌日も、翌々日も、恐ろしい試練の前に身を投げ出すのであった……。


 *


「やだって……ぼく、それ固くて嫌いなんだもの」

 裸の金玉は、申陽が目の前に突き出した張形を拒絶した。


「し、しかしですな……」

 申陽は焦っていた。

 普通サイズのブツものみこめなくて、虹色の張形を入れられるわけないではないか!


「べ、べつにいいんじゃないの? 無理に入れなくても」

 そういう悦蛇は、裸の金玉を膝に抱き上げ、自らのもの――触手である!――を差し入れたまま、とりなすようにいった。

 六日目の今では、もうずいぶんと太いものが入るようになっている。


「ああ、ぼく、悦蛇さまのがいい……」

 そのとろけるような声に、申陽はズタズタにプライドを傷つけられた。


 そもそも自分は、どっちかというと拡張がうまいほうだと思っていたのに。

 それなのに、テクでこの気持ち悪い生き物に負けてるだと?


「よしよし……と、ところでこれ、どうかな?」

 悦蛇は金玉の前に、いつもの触手とは違った、双頭の亀のようなものをひょいと出した。先っぽのぬらめきが、ぬらぬらとぬらめいている。


 金玉は、ぼんやりした目で、それを見た。よくわかっていないようだ。


 だが申陽にとっては一目瞭然、どうみても亀の頭だった。

 二本あるけど。


「な、なめてくれたり……する? やっぱり恥ずかしい?」


「そんなことないですっ……」

 金玉は、口の前に差し出されたそれをちろちろとなめた。


「甘い……」

 ――聖獣だから! たぶんネクタルやアンブロシア、ソーマなどのように、すごく健康に良い霊薬なのであろう。


「お、美味しい? もっと食べてもいいよ。恥ずかしかったらいいけど」

「恥ずかしくなんかないっ! 悦蛇さまの、とっても美味しいです……」


 金玉はそれをつかみ、目を細めてむしゃぶりつくのだった。


 *


 客室に戻り、一人になった申陽に明月鏡が声をかけた。


「あんたはんさぁー、ちょっとやりすぎちゃうの? いくらなんでも……」

「黙ってろ、古鏡こきょう!」


 申陽は、湾珠王わんじゅおう張形はりがたを金玉にほどこすため、あえてあの行いをしていたのだ。


 しかし金玉は、固い張形がきらいで――人肌に温めているのだが――悦蛇のぬめぬめして、細くも太くもなり、なんかトロトロしたものが流れる触手のほうが好きなのだった。

 そして、とうとう双頭の亀をなめるように……。


「こんな、こんなはずでは……」


「だから、わいがうたったやんか。

 あの化け物は変幻自在なんや。理想的な張形になれていわれたら、なれるんやて。


 先端から流れてるのは、筋弛緩作用と催淫作用のある霊液なんや。

 あれを入れられたら、もうどないもこないもならん。直腸からは薬物を吸収しやすいからな。メロメロになってまうんやて」


 ――八十年代黄金期のSM雑誌の愛読者が考えたような設定である!


「そら、悦蛇はウゾウゾのバケモンやし、内面もキモメンやけど、金玉とは、めっちゃ体の相性ええんちゃうの?」


「やめろっ! 言うなぁーっ!」

 申陽は真実を拒絶した。


「てか、おたくはん、あの子に未練タラタラやんか。

 目の前で、他の男に上も下も入れられて、なにやってんの?」


「仕方ないだろうが! 悦蛇は神にも等しい力の持ち主だ。

 おまえは『金玉を連れだしても、アッという間に捕まる』といってただろうが。

 だから、私はあえて悦蛇の前で調教しようと……」


「まあ、せやねんけどー。

 ところで、明日はとうとう満月やで。どないするん?」


「ぐぐっ……」

 申陽は悔しそうに、虹色に光るイボイボつきの大きなものを見つめるのであった。


 以下、次号!



 監修・調教指導・アイデア提供:湾多珠巳


 クラヴィフィリア、あるいは永遠への律動

 https://kakuyomu.jp/works/16818093078821212294

 現在、連載中の作品です。まだ序盤ですが、音楽SFになるらしいです。


 チロを連れて

 https://kakuyomu.jp/works/16817330654832772800

 最もSM味が強い作品です!

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