第14話

 母さんから城外秘と書かれた上級魔法石の取扱説明書?的な本を渡されてから数日後、今度は上級魔法石を大量に持って母さんの家改め俺んちに来た。


「バナナを実らせるために上級魔法石に水魔法を付与したいことをラディに話してみたら、『では拾いに行くか』ってちょっと火山まで行ってきたから、その時拾った魔法石の一部を持ってきたわよ」


 母さんが言っているのは、北の山脈のさらに北側にある火山帯のことだが、「ちょっと火山まで」の感覚じゃないと思うのは俺だけか?


 王様の瞬間移動の光魔法で一緒に火山へ行って上級魔法石を拾ってきたとのことだが、移動する全員が一度でも訪れたことがある場所であれば、複数人で飛ぶ?ことも可能とのこと。ただ、瞬間移動の魔法は飛んだ先で危険も伴うことが多いなどの理由から、15歳にならないと教えないことにしているらしく、フロリアとセリウスはまだ使えない。


「ちょっと火山まで行ってきたって、危険じゃないのか?」

「危険よ。だから上級魔法石が必要な場合は、瞬間移動魔法が使える人と一緒に行ってくるのがセオリーなのよ。初めて行く時だけ海路と陸路を使って行ったけどね」


 つまりは光魔法が使える王族と一緒でなければ行けないってことか。


「王様って母さんのことを大切にしている割に、そういう危険なところへ連れて行くこともあるんだな」

「逆逆、何かあった時に私が一緒に飛べないということがないよう、ラディが行けるところは私も一緒に行けるようにしているのよ。だから最初の頃はあちこち連れ回されたわ」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。


「上級魔法石については産出地が火山帯であることも含め、城内勤めでもごく一部の人しか知らない情報も多いから、輝も人に話す時は気をつけて。いつ噴煙が上がったり噴火したりするかわからないから、基本的に王族しか上級魔法石を拾いに行けないし、頻繁に行ける場所でもないから希少性が高くなるばかりだし」

「了解。城に知り合いはほとんどいないし、俺から話すこともないだろうけど」


 そんな希少性の高い石を今回こんなに持ってきたのか。20個ぐらいありそうだ。


「でも、今回二人でめっちゃ大量に石をゲットしてきたから!火山帯って結構スリルがあって楽しいのよね」


 王様も楽しく石拾いをしていたのかどうかは疑問だ。


「輝の魔力量で、魔法の練習分を差し引いて……そうね、1日1~2個ずつ様子見をしながら、この上級魔法石に水魔法を付与して頂戴。水魔法を付与した後は、使用者登録の魔法陣も忘れないようにね」


 と言って、母さんは俺に羽根の生えたペンを渡してきた。魔力を持った鳥の羽根を使って魔法陣を描くらしい。この世界の魔法に関わることって、何気に覚えることが沢山あるんだよなぁ。

 魔法石に使用者登録の魔法陣が描くことで、登録された人しか魔力を魔法石に込めることができないらしく、悪用されるのを防ぐことができるとのこと。特に上級魔法石は希少性や値段の高さから盗もうとする輩が多いらしい。


「じゃあ、まず1個試してみるよ」

「えぇ、お願い」


 俺は上級魔法石を手に取り、上級魔法石に魔力を流しながら散水の水魔法を付与していく。呪文は本に書いてあるのを読んでいくだけだけど、結構長い。間違えたら最初からやり直しだから気が抜けないし、魔力も流しながらだからとんでもなく集中力が必要だ。


「……ふぅ、出来た」


 俺が呪文を唱え終わると石に流れていた魔力もピタっと止まった。5分ぐらいかかった気がするが、魔法の付与は無事に終わったっぽい。


「綺麗なライトブルーね」


 母さんが魔法石をマジマジと見ている。


 さっきまで普通の灰色っぽい石だったのが、水魔法に染まってライトブルーに変色した。確かに飾っておきたいぐらい綺麗な色をしている。


「じゃあ、次は魔法陣か。実際に描く前に紙と普通のペンで練習していいか?」

「そうね、魔法陣って何気に描くの難しいから好きなだけ練習するといいわ。使用者登録の魔法陣はよく使うし」


 俺が紙とペンで魔法陣を書く練習を始めると、時間つぶしなのか母さんは台所で何かをし始めた。そういえば、魔法陣って初めて描くから簡単な図柄でも超むずい。俺は納得がいくまでとにかく魔法陣を描き続けていたところ、50個以上描いたところでこれなら及第点という感じの魔法陣が描けるようになった。


「よし、これならいける!」


 先程、散水の水魔法を付与した上級魔法石の上から羽根ペンを使って魔法陣全集の該当ページを見ながら使用者登録の魔法陣を描いていく。魔力を帯びたペンだからか補正がかかるようで、普通のペンで描くよりも直線や円などが綺麗に描ける。タブレットにお絵描きをしているような感覚だ。魔法陣を描く練習をした甲斐もあって、かなりスラスラと描けてしまった。そういう補正機能があるのなら、どこかに書いてくれてもいいのに。


 そして魔法陣が出来上がると上級魔法石に吸い込まれるように消えていく。


「うわぁ、魔法みたいだ」


 と、俺が独り言を言っていると「まぁ、手品ではないね」と、いつの間にか俺の前に座っていた母さんが言った。テーブルには母さんが作ったと思われるパンケーキが置かれている。


「散水の魔法石が出来上がったようね。待っている間にパンケーキを作ったから一緒に食べましょ」


 バターと蜂蜜がかけられたシンプルなパンケーキだけど、母親の手料理の記憶がほぼなかっただけに、めちゃくちゃ嬉しい。でも、何か喋ろうとすると何故か涙が出そうになるから、俺は「いただきます」とだけ言って、パンケーキを食べ終わるまで無言で食べた。


 母さんが作ってくれたパンケーキ、最高に旨いよ。


 パンケーキを食べ終わってふと顔を上げて母さんの顔を見ると、パンケーキを食べていた俺のことをずっと見ていたのか、優しい目で微笑んでいる。母さんのパンケーキは全然減っていない。


「もうパンケーキを食べる年じゃないかもだけど、美味しそうに食べてくれて嬉しい……」

「いや、パンケーキは年齢関係なく食べるけど?俺、甘いものも好きだし。ご馳走様でした」

「ふふ、じゃあ、また作るわね」


 そう言って、母さんはやっとパンケーキを食べ始めた。もう冷めちゃったんじゃないか?


「散水の魔法石がちゃんと使えるか確認しようか?」


 パンケーキを食べ終えた母さんが魔法石を持って外に出たので俺も付いて行く。


「まずは、使用者登録からね」


 母さんが羽根ペンを使って魔法石に名前を描いた後、使用者登録の魔法陣を描いた俺が羽根ペンで承認マークを描くと、魔法石に魔法陣の図柄が浮かび上がって光った後、すぅっと消えていく。


「魔法陣を描いた輝は使用者登録をしなくても使えるから、これでこの魔法石は輝と私の二人が魔力を流して使えるようになったのよ。今回は私が魔力を込めるから貸して頂戴」


 魔法石を渡すと、母さんは魔力を魔法石に流し始めた。


「散水が使えるかどうかの確認だからこれぐらいでいいかしら?」


 母さんは、魔力を込め終えた魔石を何も植えられていない畑に置き、こっちに戻ってきた。


「散水だから少し離れて魔法石を発動させないとびしょ濡れになっちゃうからね」

「なるほど」


 離れた魔法石をどうやって発動させるのかと思っていたら、母さんは指で小さな魔力の玉を作り、指ではじくように魔法石に向かって飛ばした。その玉が魔法石に当たると魔法石が反応して光り、水撒きが開始された。


「離れた魔法石にはそうやって魔力を飛ばして発動させるのか」

「面白いでしょ?」

「うん、面白い」


 この世界は色んな魔法の使い方があるようで、それを追求していくのも面白そうだ。


「上級魔法石1個で結構な広範囲に水を撒けるようだけど、バナナの葉に水やりするには高さがちょっと足りないかも。うーん、魔法石を上から吊るしてみようかな」


 母さんは魔法石に再度魔力玉を飛ばして散水を停止させて回収すると、「この魔法石がちゃんと使えることはわかったし、水撒きの方法を考えてまた来るわね」と言って、お城に戻っていった。どうやらこの後公務があるらしい。


 俺は家の中に戻ってもう1個だけ上級魔法石に散水の水魔法を付与する作業をすると、魔力がすっからかんになってしまった。うん、母さんの言ったとおり、1日2個が限界だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移したら行方不明だった母が王妃だった deep-friedbread @deep-friedbread

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ