初恋の甘々さをしっかりと味わうことのできる、とっても素敵な恋愛小説です。
体が小さく、病弱な体質の桃子。桃子には憧れている虎太郎という先輩がいたが、遠い存在だと感じている。
その虎太郎の弟である匠刀(タクト)は昔からしょっちゅう桃子の世話を焼いてくれ、桃子が体調不良になった際には一番に気付いて助けてくれる。普段はぶっきらぼうに接してくる癖に、心の中ではとても気遣ってくれる匠刀。
二人はやがて恋人同士になり、手探りながらも「初恋」をうまく形にしようと努力を重ねていく。
二人は元々「家族」のような親密さがあり、既に「恋」を越えた「愛」のような絆が出来上がっています。
本来は「恋」から「愛」に変わって行って家族になるのがセオリーですが、この二人は逆に「愛」は出来ているのだけれど、「恋」というのが良くわかっていない。
世の中でいう恋愛というものへの憧れがあり、『恋人らしいこと』をしたいと願い、手作りのお弁当を作るとかに過剰に喜んでみたり。そうかというと『良い恋人であろう』という気持ちが空回りし、重たいくらいに世話を焼いてしまうことも。
そんな風に「初恋の楽しさ」や「初恋の大変さ」なんかがふんだんに味わえるところが魅力の一つです。
でも、それだけでは終わらないのも本作の特徴。
恋人になるとは、互いのためを思うこととは。そんな普遍的な問いについても考えさせられます。
幸せを模索していた二人でしたが、ある時を境として、強い葛藤が生まれるようになります。
家族のようだった二人が「恋人」として一緒にいることを選び、やがては自分よりも相手の方がずっと大事になり、相手の幸せのために今の関係を続けていいのかと悩み始める。
そんな二人が、最後にはどんな決断をし、どんな未来を迎えるのか?
読み終えた後には胸がいっぱいになり、「読んで良かった!」とひたすら思わされました。「恋」を描くだけでなく、「愛」や「人生」についても考えさせられる、心に強く響いてくる作品でした。