1, 6月の暗号
暗号が解けたのは偶然だった。パスワードは半角英字だと思い込んでいた私は『minaduki』と打つべき所を、『水無月』と誤変換してしまった。しかし、それが逆に幸いし、サインインすることが出来たのである。人の身体を作るくらいだ、パソコンの改造など容易な事だっただろう。それにしても、と私は溜息をつく。3年かけて見つけた(それも偶然だった)パスワードが、こんな単純なものだとは。博士らしいと言えば博士らしいが、気づけなかった自分には呆れしか感じない。
パソコンがウィィン、と音を立てて起動する。デスクトップにはファイルと、アプリケーションソフトがひとつ入っていた。私はファイルを開く。中には、3つの画像が入っていた。(画像、だけ…?)疑問に思いながら、1つ目の画像を開く。
そこに、私と白瀬のカルテが映し出された。白瀬のカルテには、大量の情報が書き込まれていた。主に脳に関する部分の記述が多く書かれていたが、治療法などは記載されていなかった。
一方、私のカルテには文字などは余り書かれていなかった。代わりに、私の体のCT画像や骨格、私の体の設計図のようなものが記載されていた。2つのカルテは、同じ医者が書いたにはあまりにも内容から記載方法まで、全てが違っているように見えた。私は違和感を覚えながらもその画像を閉じ、次の画像を開く。
それは、私がよく見慣れたものだった。全身の大まかな設計図から腕、指、脳等のパーツごとの設計図、さらに材質の指定までが細かく書かれていた。そこには、私の設計図があった。
細かく記載された図は、博士の努力の結晶とも言える、本来ならば世界的な発明となるはずだったものである。もっとも、今これを世に出したところで評価する人などいるはずもないが。私は最後の画像へカーソルを合わせる。
ダブルクリックして画像を開くと、そこには地図が映し出された。中央には『水無月病棟』の文字。そしてその周りには大量の道が描かれていた。ただ、ここに留まっている私は、この地図がなんの地図かを理解していた。
(これは…クラゲの気道の図…?)
ミナヅキ病棟 朔菜 時夏 @0226haruka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ミナヅキ病棟の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます