第18話 わたしの友達
「マリア……?」
わたしは唖然とする。どうしてマリアがここに?
マリアはズカズカと歩いて来て、わたしと高橋さんの間に立つ。
「ちょっと、あたしの大事な友達にちょっかいかけるのはやめてくれる?」
マリアは腰に手を当て、高橋さんをにらむ。
「あ、あんた誰よ。ぼっちちゃんに友達なんているはず……」
「あたしはヒカリの友達よ! 何よ、その『ぼっちちゃん』って。ヒカリはひとりぼっちなんかじゃないわよ。バカじゃないの?」
「あ、あんたがこの子の何を知ってんのよ!」
「知ってるわよ! あたしが一番、ヒカリのことをよく知ってる!」
マリアは杖を取りだした。
「次ヒカリを傷つけたら、あたし許さないんだから! カエルにしてやるんだから!」
そう言っておどした。
まったく、いつもマリアは大胆だな。この世界で魔法を使ったら、大変なことになっちゃうのに。でも、わたしのために戦ってくれてるんだ。それが嬉しかった。
「は? 意味分かんない。もういいや、行こ」
高橋さんたちはマリアに困惑しながら、気味悪そうに去っていった。
「ヒカリ、大丈夫?」
マリアはわたしの方を向き、手を差し伸べてくれた。わたしはその手をつかんで立ち上がる。
「どうしてマリアがここに?」
「お菓子パーティーの約束してたのに、全然ワンダーランドに来てくれないじゃない。魔法の本に何回書き込んでも返事が来ないし。いつもだったらすぐ返事が来るのに全然来ないから、心配になって」
マリアは魔法の本を開き、わたしに見せつけてくる。
『ヒカリ、何時頃来れそう?』
『まだ来ないの?』
『大丈夫? 用事あった?』
『おーい!』
『ねえ! 返事してよ!』
「すごーくいやな予感がして、こっちに来てみたら、魔法の本がゴミ箱に捨てられているじゃない。こっちの世界に来て最初に見たものがゴミ箱って、最悪ったらありゃしない」
ゴミ箱に捨てるなんて、高橋さんたち、ほんとにひどいことするな……でも、見つかってよかった。
「そしたらヒカリが大ピンチで。来てよかったわ。本当はこっちの世界に来るのはお父さんに禁止されてたけど、バレなきゃ平気よ。魔法も使ってないし。それに緊急事態だったから仕方がないわ」
「ありがとう、マリア」
マリアが来てくれなかったら、今頃どうなっていただろう? とにかく、助かったし、マリアが高橋さんたちにガツンと言ってくれてスッキリした。
「わたし、マリアに助けられてばかりだね……」
わたしはうつむく。情けない。わたしはマリアに、何もしてあげられてない。
「違うよ。あたしも、ヒカリに助けられてたよ」
「え?」
わたしはおどろいた。わたしがマリアを助けてる?
「あたしの家、パパもママも仕事が忙しくてさ。全然帰ってこなくて、寂しかったんだよね。でも、ヒカリと魔法の本でやり取りしてる時は、寂しくなんてなかった。あなたのおかげで、毎日が楽しかったわ。だから、ありがとう」
「マリア……」
そうか。やっぱりマリアも、お父さんとお母さんに会えなくて、寂しかったんだ。我慢していたんだね。
いつも強いマリアの弱いところを少しだけ見れた気がして、嬉しかった。
「わ、わたし、強くなる! この世界で、頑張るから! だから、この世界に誇りを持てるようになったら、今度はわたしがマリアをおもてなしする。それまで、待ってて!」
わたしはそう宣言した。マリアにそう伝えたかった。わたしはこの世界で生きる。ずっーとワンダーランドにいたいなんて、もう言わない。
すると、マリアは嬉しそうに笑って答えた。
「ええ、待ってるわ!」
つられてわたしも笑った。
「さあ、ワンダーランドへ行きましょう。たくさんお菓子を用意して待っているんだから。本当はせっかくヒカリの世界に来たから、見て回りたいところだけど、ヒカリがそう言うなら、またの機会にするわ」
わたしとマリアを繋いでくれた魔法の本。なぜそれがわたしたちの前に現れたのか。それはもしかしたら、わたしたちが二人とも、寂しさを感じていたからなのかもしれない。
「今日はあたしが、とっておきのおもてなしをしてあげるわ!」
「やったー! 楽しみだな!」
マリアはわたしの、世界で一番大好きな友達。これからもずっと。
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