第17話 消えた魔法の本 

 放課後、わたしは誰もいなくなった教室に、荷物を取りに行った。

 午後の授業はサボって、山崎先生と本についてたくさん語り合った。山崎先生は、わたしの知らないたくさんの物語を知っていて、どれも魅力的だった。

 今日は朝からとっても最悪な一日になるかと思っていたけど、今はすごく気分がいい。

 

 わたしはランドセルに、机の中の教科書たちを入れていく。その時、わたしは違和感を覚えた。


「あれ?」


 ない。机の中に入れていたはずの、魔法の本がない。わたしは机の中をのぞく。

 ない。どこにもない。ランドセルの中も、お道具袋の中も確認する。やっぱりない。

 冷や汗が流れる。どこに行っちゃったの? 

 わたしは教室中を探した。後ろの棚や、教卓の中、そうじ道具箱、全員分の机、すみからすみまで探した。だけど、ない。

 朝、マリアとやり取りをした後、絶対に机の中に入れたのは覚えている。それなのに、なくなっている。


「どこに行っちゃったの……?」


 魔法の本が勝手に無くなってしまうなんて、そんなことありえない。

 そこでわたしは、一ついやなことを思いついた。


「誰かに……盗まれた?」


 高橋さんたちだ……そんなことするのは、高橋さんたち以外にありえない。

 どうしよう、怖い。だけど、考えている暇は無い。あの魔法の本だけは、絶対に譲れないから。

 勇気を出さなきゃ。

 わたしはボロボロのつり橋を渡りきった。ケルベロスに追いかけられても逃げ延びた。いばらの迷宮を抜け出した。わたしにだって、それができるくらいの勇気はあるんだ。高橋さんたちに立ち向かうなんて、それに比べたらどうってことない!

 わたしはランドセルをひっつかんで、教室を出る。

 どこにいるんだろう? もう帰ってしまったかな? 

 校舎の中を見て回っていると、中庭で高橋さんたちがだべっているのを見つけた。

 わたしはゆっくりと近づいて行った。


「あれ、ぼっちちゃんだ」


 高橋さんがわたしに気づく。

 言わなきゃ。あの魔法の本には、マリアとの思い出がたくさんつまってる。それに、あの本がないとマリアとは会えなくなってしまう。なんとしてでも取り返さなきゃ。


「あ、あの、わたしの本、知らない?」


 わたしはたずねた。

 すると高橋さんは答える。


「ああ、あの本なら捨てたよ。古くさくて汚らしかったから」


 ほら、やっぱり。


「ど、どうして、そんな勝手に……」


 人のものを勝手に捨ててしまうなんて、どうかしてる。


「だって気持ち悪かったんだもん。いつもあの本に何か書き込んで、ひとりでニヤニヤしてて」


 今度はわたしのとなりの席の女の子が言う。見てたんだ。誰にも気付かれてないと思っていた。


「しかもあれ何? 誰かとのやり取りが書かれてたけど、ぼっちちゃん、ひとりで交換日記みたいなことしてんの? かわいそー」


 人のものを勝手に取って、しかも中まで見て、そして捨ててしまうなんて。許せない。絶対に許さない!

 わたしはギュっと拳を握りしめる。


「……返して」

「何?」

「返して! わたしの宝物なの!」


 わたしはグッと近づいた。


「ええー、めんどくさ。自分で探せばいいじゃん!」


 高橋さんはイラついたようにわたし突き飛ばした。わたしは地面に投げ出される。


「そんなんだから友達いないのよ。ぼっちちゃんが私たちに逆らっても、誰も助けてなんてくれないんだから」


 高橋さんはわたしをバカにしたように見下す。


「いるもん……」


 わたしは泣きそうになりながら言う。

 言われっぱなしじゃ悔しい。ひるんだらダメだ! ここで立ち向かわなきゃ、わたしはずっと臆病者だ!


「わ、わたしにだっているもん! 友達! あなたたちよりずっと素敵な、友達が!」


 わたしは叫んだ。

 そんなわたしの声に、高橋さんたちはおどろいて後ずさる。


「は、はあ? 何言ってるの? だったら連れてきなよ、その友達を」

「それは……」


 わたしは口をつぐむ。ここにマリアを連れてくることはできない。


「ほら、ダメじゃん」


 どうしよう。このままじゃ、わたしは見栄を張ってうそをついたって思われる。

 何も言い返せない。

 そんな時だった。


「あー! やっと見つけた! ちょっと、何の騒ぎ?」


 聞き馴染みのある声が聞こえた。わたしの心臓が高鳴る。

 振り返ると、そこには魔法の本を手に持った、ふわふわな金髪に、緑色の瞳のかわいらしい女の子が立っていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る