第11話 魔の洞窟
しばらく進んでいくと、洞窟が見えてきた。周りの岩の形のせいか、巨大な犬が大きな口を開けているように見える。
「これが『魔の洞窟』か……いかにも『魔の洞窟』って感じの見た目だな……」
ルカくんが感心したようにつぶやいた。
わたしたちは洞窟に入っていく。中はうす暗く、足元がよく見えない。
見かねたマリアが、杖を取りだし一振りする。すると、杖の先端の緑色の宝石が光始めた。光は辺りを照らしてくれる。これで進みやすくなった。
洞窟内は外よりも涼しく、しずかで、わたしたちの足音だけがひびいている。
「『魔の洞窟』っていうから、何か危険なやつがいるのかなって思ってたけど……まだ分からないわね。どこかに潜んでいるかもしれないから、気をつけて進みましょう」
そう言いながら、マリアはわたしの手を握る。わたしはおどろいて彼女の方を見た。
「暗くて危ないから、手をつないでいきましょ」
「うん!」
嬉しくて、思わず顔がほころぶ。マリアの手、あったかい。
そこでわたしはハッとして、ルカくんの方に目線をやる。
「こっちを見るな!」
すぐに注意されてしまった。ルカくんは眉間にしわを寄せる。
うらやましい? いいでしょ? これは女の子同士の特権だもんね。
手をつないで歩いていると、バサバサという音がして、何かが目の前を通り過ぎた。
「わ! なに!?」
マリアは杖を高く上げる。光に照らされたのは、数匹のコウモリだった。
「コウモリだね」
「ほんとね。もう、びっくりしちゃったわ」
危険な動物じゃなくてホッとする。
気を取り直して、わたしたちは進んでいく。
しばらく歩いていると、少し明るい場所に出た。
「ねえ見て! とってもきれい!」
マリアが感嘆の声をあげる。
そのエリアには、青色に輝くたくさんの水晶が広がっていた。水晶の放つ淡い光のおかげで、辺り一面が明るかった。
「すげえ、これ絶対高価だよな? 採って売ったら、俺たち億万長者じゃん!」
ルカくんは興奮しながら水晶を眺める。
きれいだな。神秘的な光景に、わたしは感動した。わたしは水晶に触ってみる。固くてひんやりとしている。これが、お母さんが持っているようなキラキラしたネックレスになるのか。
十分水晶を堪能した後、マリアは言う。
「あたしたちの目的はここじゃないわ。早く先に進みましょう」
そうだ。わたしたちには時間が限られている。
ルカくんはちょっぴり名残惜しそうにしていたが、わたしたちの目的は、ユニコーンに会うことだ。でも、その道中で素敵な景色を見ることができてよかった。自然って素晴らしい。
水晶のエリアを抜けると、再びうす暗い道が続いた。
「あ、あれ、出口じゃない?」
遠くの方に光が見えて、わたしは指をさす。
「ほんとね! もう出口だわ! 『魔の洞窟』なんて恐ろしい名前がついてるけど、大したことなかったわね」
わたしは疑問に思った。これまでこの洞窟に、特に危険なものはなさそうだった。むしろ水晶はとってもきれいだった。それなのにどうして『魔の洞窟』なんて呼ばれているのだろう?
その時だった。ピチャっという水が滴る音がした。
「うわっ! 上から水が降ってきたぞ? 頭にかかったんだけど」
ルカくんはそう言いながら、手で頭に降ってきた水をぬぐう。
「え……」
彼は手についた水、ではなく、ヌメヌメとした液体を見て固まる。
それと同時に、低いうなり声が洞窟にひびいた。
「な、なあ、俺の気のせいだったらいいんだけどさ。その、獣のうなり声、みたいなのがすぐ後ろから聞こえてくるんだけど……」
「……え、ええ、残念ながらそれは気のせいじゃないわ」
杖の光が、それを照らす。
蛇のようなしっぽ、鋭い爪が生えた四本の足、大きな三つの犬の頭、獲物を捉えた合計六つの目。わたしたちの体よりもはるかに大きい。
その大きな犬の怪物は口からヨダレをたらしながらうなっていた。ルカくんの頭に落ちてきたのは、その怪物のヨダレだ!
「ケルベロスよ! みんな走って!」
わたしたちは一目散に出口へとかけ出す。
急に現れた。一体どこに潜んでいたのだろう? 完全に気配を消していた。あんなのに追いかけられるなんて、生きた心地がしない。後ろなんて振り返れない。
でも、ケルベロス! 三つの犬の頭を持つ怪物! 前に読んだ本の中に出てきたことがある。だから、本物を見ることができて、嬉しかった。だけど、今はそんなこと思っている暇は無い。走らなきゃ、食べられちゃう。
全速力で走って、洞窟の外に出た。ケルベロスはそれ以上追っては来なかった。
わたしたちはゼイゼイと息を吐く。『魔の洞窟』とは、あの怪物ケルベロスがいるからそう呼ばれていたのか、と納得した。
「ま、全く、なんであんな怪物がいるんだよ。おっかねぇ」
「まあ、とにかく『魔の洞窟』は突破できたから、あとは『いばらの迷宮』だけね」
『恐怖のつり橋』『魔の洞窟』をわたしたちは乗り越えてきた。ユニコーンのいる『神秘の湖』まで、着実に近づいている。
「次はどんな危険が待っているんだろう?」
ワクワクしながらわたしはたずねる。すると、ルカくんが不思議そうに言った。
「……ヒカリって、大人しいくせに度胸はあるよな。全く怖がらないし、肝が据わってるというか」
わたしに度胸なんてあるのかな? 確かに、今は全然怖くない。むしろワクワクしている。みんなと、ずっと憧れていたこの本の中のような世界を冒険できるのが楽しいから。
でも、学校じゃわたしは何もできない弱虫。引っ込み思案でひとりぼっち。だけど、不思議。マリアとルカくんが一緒だったら、何でも楽しいし安心する。本当の自分をさらけ出せるのだ。
「わたしには、度胸なんてないよ。わたしはただ
この世界を二人と冒険できるのがとにかく嬉しいの」
二人のおかげだ。今、人生で一番楽しい。泣きそうなくらいに楽しい。こんなに素敵な友達ができて、わたしは幸せ者だ。
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