熱砂の都市カガラム 前篇 その4
第九章 暗闘都市
第106話 オジさん騎士は最悪に備えねばならなかった 9-1
オジとJKが休暇から帰ってきた翌日。
その夜、カガラム市街から早馬が駆けてきたことを知るのは、当番兵以外では一部の士官に限定されている。
オジ・グランフェルが急な呼び出しを受けたときも、最初は理由の説明さえなかったくらいだ。
軍議に使う
ファタルと
ただし、全員が布を巻いて顔を隠している。
おそらく四人は偽物なんだろう。
けどまるで分身でもしたように、五人とも同一人物にしか見えなかった。
オジは一人一人を注意深く観察し、最後に彼らの
「お前にしてはずいぶん用心深いじゃないか、ファタル?」
ホビットは口の片端を皮肉げに曲げて見せる。
そのまま
彼が堂々と足を組んでも、他の者は文句を言うでもなく
「相変わらずいい勘してるな。
まさか、当てずっぽうじゃないんだろう」
「まずは皆の姿を元に戻してやったら、どうだ?」
実はそのまさかだったが、オジは素知らぬ顔を決め込んでしまう。
ホビットは
たちまち五人の使者達から白い
五種五匹の動物達がお行儀よく整列する様は、ちょっとしたサーカス団のようである。
「まさか、人間ではなかったのか」
「よく
いざってときは影武者もやってくれている」
上座に座るホビットも、すでに長身の男に変じていた。
輝くほど白い歯と
ファタルは冒険者としてもっとも輝いていた時代、〈
「で? なんでわかったんだ。
あっさり見破られると腕が
「お前が考えそうなことだからだ。
それよりファタル、わざわざ幻影魔法で影武者まで立てた理由も、まだ聞いていないぞ」
わざわざ自分に似せた幻影を五体も
それはファタルが危険を感じるほどの敵が、こちらの警戒線の内側に存在してることを示していた。
なのにファタルはもったいぶるように頭の後ろで腕を組む。
「そうだな。
いいニュースと悪いニュース、ついでに最悪のニュースがあるんだが、どれから聞きたい?」
「いいニュースからだ」
こいつがこういう態度を取るときは、実際には余裕がない証拠だ。
だからオジも効率を重視する。
「ローエン大公の目的がわかった。
燃える水を手に入れることだそうだ」
「…………なに?」
先に自軍が有利になる情報を聞いておけば、悪いニュースにも対応策を思いつけるかもしれない。
そう考えての選択だった。
だがまったくの無理解によって、思考が寸断されてしまう。
燃える水とは、地面から
油なのに食用とすることができず、
しかも燃やすと黒煙と悪臭を放って、有毒ガスを発生させてしまう。
だからといって毒としては毒性が弱く、その癖、日常生活に使えばしっかり健康を
だったらもっと簡単に入手でき、もっと安価で、もっと扱いやすいものがいくらでもあるというのが、オジの見解だった。
なのに燃える水など手に入れてなんになるのだ?
そんなものに何万もの領民の命を失ってまで戦争を起こす価値があるというのか??
ずっと謎だった帝国軍の戦争目的をようやく
「言いたいことはわかるが、質問されたって困るぞ?
俺だって絶賛戸惑い中だ」
「なら、悪いニュースとはなんだ」
オジは砂漠の冷え切った夜に包囲されながら、
ファタルでさえ
「ローエン大公は、さらに五千の援軍を送ってきた」
バカな、という言葉は
「現在、第四オアシスを
「
第四オアシスは砂漠を抜ける長い
そんな場所に
「だが事実だ。
おかげで帝国軍を追撃していたマムルーク達も、今は第五オアシスまで引き返してきてる。
もともとファタルの計画では、砂漠で八割から九割の敵兵は死ぬことになっていた。
だが今や
しかも周囲は平地に近く、
すぐにも
「ちなみに燃える水が
「なら、すでに発見されたとみるべきだろうな」
おそらくは最初の行軍時、帝国軍が第四オアシスを通ったときには油田とやらをみつけていたんだろう。
それも偶然の発見などではなく、最初から油田の
でなければ、これほど早く
むしろ、表向き繰り広げられていたモンスターを使った派手な戦闘行為自体が真の目的を隠すためのブラフだったのではないか。
だが、とオジは蒼玉色の瞳を上げて友人を見る。
「反対に
「ああ、それには敵の
普段のファタルならそうする。
兵力差があることなど、最初からわかりきっていた戦いだ。
そしてその程度の
ならば、ヤツを
「それで? これ以上、最悪のニュースというのはいったいなんだ」
「帝国との内通者がわかった」
ファタルの黒い瞳に初めて弱気が
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