第87話 JK狙撃手はオジさん騎士の決着にもご不満らしい 7-7
あっ、という驚きは声にならない。
盾を貫通した
その微風が前髪を揺らすより先に、騎士の
そこでは頭上高く
オジはやはり、そう早く動いたわけじゃない。
ただ、すべてを同時に行っただけだ。
足首と膝の
それだけで三人目の顔に浮かぶ勝利への確信が激痛に
なにかが光を乱反射させ、
激しく回転しながら砂の上に突き立てられたのは、一本の剣だ。
四人目の男が、はっとして自分の手に剣がないと気づく。
代わりにオジはいつの間にか
あまりに自然な動作で、まるで魔法のようだった。
オジが軽く盾を返したとき、三人目は手首を
結果として、盾には突き刺さった鉄剣だけが残される。
そしてそのときにはもう反対の手で
まさか、鉄の剣を貫通させたのはわざとだった?
理解とともに、興奮の震えがゾクゾクと背筋を駆け抜けていく。
なら二人目に木剣を投げたのも、この流れを想定してのこととしか思えない。
オジに切っ先を向けられ、三人目と四人目も慌てて降参を口にする。
これ以上の戦いは無駄だと悟らされたんだろう。
「ひ、卑怯だっ!」
だが、納得しないのはリーダーの男だった。
「本当は見えてるんだろ!? じゃなきゃ有り得ない!」
「なにを言う。まだ終わってはいないでしょう」
この戦いの間、ほとんどしゃべらなかったオジが低く
おそらく痛みを
「まさかさんざん仲間をけしかけておいて、自分は最後まで安全な場所から
「ぶ、
「納得いかぬのなら先ほど跳ね飛ばした剣がどこかに落ちてるはずです。
貴方はそれを拾い、自分の手で私の目が見えているかどうか確かめることができる」
リーダーは
けど野次馬たちはもちろん、最初にシールドバッシュで
彼を助けようという者はひとりもいなかったのだ。
「できないのですか?
できないのなら、貴方のJKへの想いもその程度だったということだ」
「だって……だって見えてるんだろぉぉぉ」
男はもうただの駄々っ子になって叫ぶしかできないらしい。
オジはようやく自分で目隠しを外す。
いつでもできたはずなのに、オジはそうしなかったのだ。
普段、後ろに
「あれだけやかましかった歓声が急に止まれば、誰だってなにかあると気づきます」
確かに。
「おかげで、ずいぶん音も聞き取りやすくなりましたからね。
いくら足音を忍ばせようと隠しきれるものじゃない。
おそらく誰か真剣でも持ち出したんだろうと当たりをつけていました。
飛び道具という可能性も考えましたが、
「う、嘘だ……わかってたなら、盾を貫かれるはずない」
いや、そのツッコミは見えてない前提に立っちゃってるでしょ。
あたしも最初、金属の武器を盾で受けてしまったのは、オジが見えてないせいで起こしたミスだと思い込んだ。
「私は普段から、できるだけ木のラウンドシールドを使うようにしています。
金属の盾は固いが、
ですが木は傷つきやすい代わりに敵の攻撃を受け止め、仲間のことも守ってくれる。
なにより、あえて
やはり、さっきのは確立された技術体系に
あたしたちの時代には失われた、シールドコンバットという戦い方なのか。
だとしたら重装騎士というロールにとって、盾は剣よりもはるかに厄介な武器なのかもしれない。
「さて、私の勝ちということでかまいませんね!」
オジはもう親衛隊のリーダーにはかまわず、周囲に向かって声を張る。
もちろんこの場に異論は挟めるような者はいなかった。
「ならば正当な権利として主張させてもらいましょう!
今後は誰も不必要にJKのテントへ近づいてはならないっ。
彼女のことは、このオジ・グランフェル・シグルンヒルトが守ると誓いを立てている!」
スキンヘッドとセトくんの視線がチラチラと横顔に突き刺さってくる。
くそ、今あたしを見ないでほしい。
「そして、彼女の名誉のために
神に誓って、私と彼女の間にやましい関係などはない!!
もし不名誉な噂を流す者があれば、この私が何度でも立ちはだかろう!
すでにその覚悟は証明したぞ。
JKのためならば、決して逃げはせん! いつでも、どこでも、何人だろうと戦い抜くつもりだ。
さあ、どうした? 彼女に求婚する者が山のようにいると聞くぞ。
私が全員打ち倒し、さらなる証明に変えて見せよう」
もう我慢の限界だった。
「セトくん、スキンヘッドから賭け金の回収お願い」
「えっ? あっ、お姉さん……ああっ」
限界だったから、野次馬の間を抜けてオジの前に立つ。
あたしが次の挑戦者になることに決めたのだ。
「疑義ならあるよ」
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