第37話 JK、熱砂の都市でバザールを満喫する その5



 グランフェルおじさんってば、ガチであたしのこと口説こうとしてるじゃん!


 えーどうしよっかなー?

 そういうのマジで困るんだけどなー。



「大した品ではありませんが、よろしければ使い捨てていただければと」



 おじさんが布のかたまりを差し出すので、しょーがないなーと思いながらも、とりあえずもらえる物は貰っておこうと受け取った。


 さっそく、それを広げてみて……ん?

 いきなり感情が無になる。



「スカート? ロングの」


「はい、今はローブで隠されてるようですが、おものが破損しているのではありませんか?」



 確かめるまでもなく、あたしのプリーツスカートはいつも通りである。


 あんまりじろじろ見られてた印象はないけど、どうもスカートの長さだけで誤解されたらしい。



 でもこの流れ、すっごく身に覚えがあるんですけど?


 セトくんも同じなのか、気まずいような、ようやく同志をみつけたような、複雑な顔をしていた。



 けど、おじさんだけはその空気を察しようがないんだろう。


 真面目腐った太い眉をキリッとさせて、熱い瞳であたしをみつめている。



「本来、ケット・シーたちの救援は、我々が果たすべき役割です。

 それを代わって果たしていただいた以上、その補償をするのは当然のこと。

 我々の名誉のためにも、どうぞお納めください」



 挙げ句、騎士らしくその場にひざまずいたまま、こうべを垂れてしまう。


 つまりお礼のつもりだと言いたいらしい。



 そうか、この人がバザールへ誘ってくれたのは、あたしにお礼をするためだったんだと気づく。


 うんまあ、ちょっと肩透かたすかし感はあるけど、それはそれで嬉しいよ、うん。



 そこは全然、気持ちは嬉しい。

 本当に間違いなく。



「あの、お姉さんのスカートが短いのは元々らしいですよ」

「はは、ご冗談を」



 セトくんが代わりに説明してくれるけど、おじさんはあたしたちが遠慮してるとでも思ったらしい。



 いや、でも今のは惜しいんだよ、セトくん?

 それもそうなんだけど、あたしが言いたいのはそっちじゃないんだ。



 この地味過ぎる色といい、野暮やぼった過ぎるシルエットといい。

 すべてが無難というか、スーパーの二階で売ってそうというか。



 周りの人たちを見てみると、確かに同じようなスカートを穿いてる人はいる。

 むしろ流行のファッションなのかなという印象さえ受けた。


 だって、そっちはちゃんとオシャレに見えんだもん!



 なのにこの、絶妙な他にあるだろ感は、どう表現していいかもわからない。



「貴方が果たしてくださったことに比べれば、本当に大したものではないのです。

 どうぞ、ご笑納しょうのういただければと、さあっ……お嬢さん?」


「……ごめん」


「はい?」


「ごめん」


「いえ、なにを謝っていらっしゃるんでしょう」



 ダメだ、これはちゃんと言わないと伝わらないやつだ。



「こ、こんなのダサ過ぎて穿けない」



 おじさんは稲妻が走ったみたいな衝撃を受けたらしい。


 四角い顔であごの関節が外れたみたいに大口を開け、完全に白目をいていた。


 心なし、一瞬で白髪が増えたようにも見える。



 すまん。

 あたしだって人に物をもらっておいて、こんなことは言いたくなかった。



 おじさんのことはガチでいい人だと思ってる。

 でもセンスだけは、クソださ!



 ていうか、最初からあたしの意見を聞いてくれたらよくない?


 考えてみれば、大人の人に無断で着る物を買われてしまうのは、あたしにとって初めての経験だ。



 そうか、やっといい例えが思いついた。

 戦災孤児のあたしにはすぐ出てこなかったけど、たぶんアレでしょ。



 これが、お父さんが勝手に買ってきた服を渡された気分ってヤツか!



 途端にふわりと柔らかな風に前髪を撫でられ、体温より少しだけ熱い愛着が芽生える。



 へえ、こういう感覚かー。



 チラっと見ると、おじさんはまだ灰になって固まっていた。

 まあいいや。



 なんとなく恥ずかしいので、おじさんには内緒。



 でもせっかくだから記念にもらっておこう。

 絶対に穿くことはないだろうけど、



 〈武器ロッカー〉には武器しか入れられないけど、あたしは背嚢はいのうのことは武装の一部だと認識している。


 だから端を揃えてスカートをたたみ、大切に仕舞っておくことにした。



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