間章 魔女部隊、戦場を観測する

第32話 魔女部隊、戦場を観測する



 ――戦場を見渡すように突き出した岩壁の上、なにかがかすかに星明かりを反射していた。



 しもが立つほど冷たい岩の上に、サンドパターンのカモフラージュネットが揺れ、そこから暗視ゴーグルが覗いている。


 生命を拒む砂漠においても、なお異質な存在感を放ち、いっそう闇を際立たせるかのようだった。



 そのときゴーグルの下で異様なほど赤い舌が浮き上がり、なまめかしく唇を舐めるのが見えた。



「あーら、勝手に魔物を連れて出撃した愚図ぐずを連れ戻せって命令オーダーでしたけど、これって生首になったあとでも有効なものなのかしらぁ?」


煉華れんげさん、あまり直接見てると気づかれますよ」



 煉華れんげの背後から、やる気のない面倒そうな声がした。


 そこにぶかぶかのアーミージャケットを羽織り、寝ぐせ一歩手前のショートヘアを頭に乗せた少女がいる。


 そのくせ片耳にだけ開けたピアス穴から、藤の花にも似たフラワーチェーンが吊り下げられていた。



「この距離から? いくらなんでも警戒し過ぎではなくて、美弥子みやこさん」


「あれは間違いなく〈庭〉の出身者――〈グレイル〉のひとりです。

 距離三千でも近過ぎるくらいじゃないですか」



 美弥子みやこと呼ばれた少女は偵察ドローンを上空に飛ばし、光学センサーから受け取った情報を手元のタブレットにリンクさせてるらしい。


 そこには騎士の手を掴み、井戸から引っ張り上げられる紅い瞳の少女が映し出されていた。



 通常、ドローンというのはかなりの爆音を掻き鳴らして飛行する。


 だが彼女の操るドローンは、なぜかまったくの無音で空中に静止していた。



 煉華れんげもまた集落の様子を眺め、憐みと侮蔑に鼻を鳴らす。



「あの様子じゃ、こちらの世界で〈グレイル〉なんて呼ばれてることも、その理由も、まだ知りもしないんでしょうけど」


「〈グレイル〉の狙撃手、中佐の捜してる子だと思いますか?」



 万年やる気のない美弥子みやこの瞳が、わずかに鋭さを帯びる。


 けど煉華れんげは暗視ゴーグルの電源を落とし、カモフラージュネットをばさりと脱ぎ捨ててしまう。



「さあねぇ」



 出てきたのは、一見して大和撫子やまとなでしこ彷彿ほうふつとさせる長身の少女だった。


 平安貴族のように長い髪は細かい毛束に分かれ、まるで鋭いナイフで一閃したように水平に切り揃えられていた。

 それが後頭部でくくられ、ひとまとめにされている。


 黒いブレザーにチェックのスカート、豊かな胸がタクティカルベストの上に乗っかるように支えられていた。



 美弥子みやこが少し居心地の悪そうな顔になるものの、煉華れんげは気にも留めず、あっさりきびすを返してしまう。



わたくしたちが追いついたときには、すでに全滅していた。

 そう報告するしかないんじゃなぁい」


「つまり、報告はしないと?」


「毒を喰らわば皿までもなんて言うけれど、できれば毒もお皿もおなかに入れたくはないじゃなぁい。


 それより……」



 煉華れんげが腰に手をやると、ガチャリと重たげな金属音が存在を主張した。


 それは銃器でも、まして西洋のロングソードでもない。



 野太刀のだちと呼ばれる、長大な日本刀である。

 剣の一種でありながら、本来〈ニースベルゲン〉には存在しない武器だった。



「二十五年前、勇者とともに魔王軍と戦った〈恥知らずのオジ〉か。

 とっくに全盛期を過ぎたおじさんと決めつけてたけど、少しは刀語かたり合える殿方なのかもしれないわねぇ。


 ふふっ、ふひゅふっ……ふふひゅふふひゅふっ」



 煉華れんげ月黄色ルナティックイエローの瞳から狂気を滲ませ、口の中で笑いを転がす。


 早くも血と闘争への期待を抑えきれないのか、断続的に背中を揺すっている。



 美弥子みやこは相棒の姿に飽きれるしかない。



「戦闘狂」



 強いと見染みそめた相手とは戦わずにいられない。

 銃器よりも刃物に執着する性癖から、煉華れんげは仲間内でそう評されていた。



「行きましょお、美弥子みやこさん? 貴女もいっしょに謝ってくださるんでしょう。


 長谷川はせがわ中佐に」



 やがて美弥子みやこも諦めたように吐息をつくと、ドローンを戻して〈武器ロッカー〉に仕舞った。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



さあさあ、皆様がた!

この辺りでまた、我ら吟遊詩人にを頂戴したく存じます



お楽しみいただけているなら、

ぜひハートによる応援を!


引き続き一座のもよおしをご覧いただけるならば、

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もちろん、☆☆☆のレビューを頂戴いただけるならば、

もっとも光栄に存じます


最新話の下手しもて、あるいは小説のトップよりレビューの項目から

どうぞお待ち申しております



皆様のお心ざし次第では

かたたる吟遊詩人の歌声にも、いっそう熱が入ろうというもの!


よろしいですかな?



それでは紳士淑女の皆様がた、

ついにふたりが出会い、いよいよ物語は動き出します!


ここでお席を立つのは惜しゅうございますぞ?



ではまた、ごゆるりとお楽しみくださいませ



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




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