第25話 JK狙撃手は大鬼の群れを相手にタワーディフェンスする 2-11
もはや、どんな技術も火力も勝ち負けさえ関係がない。
ただ、弾けて消えるだけの魂の削り合いだ。
命までも消耗品と見なし、ただ我武者羅に生と生がぶつかり合う原始の戦いが幕を開けたのである。
あたしは考えるより先に、先頭を走るオーガに向かって発砲する。
倒れた巨体が疾走する勢いのまま、炎上する小屋を
乱れ飛ぶ破片が頬をかすめても、あたしは自身に
だがオーガは頭部を守るように棍棒を構え、射線から急所を隠していた。
それでも12.7mm徹甲弾の
オーガはさらに数歩よろめくように歩いてから倒れ伏す。
直後、その手を巨木のごとき大足が踏み潰し、次のオーガが風圧さえ感じる凄まじい咆哮を上げて爆走してくる。
止まらない!
あたしはさらに三体のオーガを仕留めて弾倉を抜く。
穴の上から銃剣で一突きにするのは、令和の時代にあってもなお有効とされる戦術だ。
つまり到達された時点で、タイムアップ。
あたしはすぐに井戸の
かさばる大口径銃を〈
けど顔を出した途端、いきなり
「あっ」
あたしはいつから人間の兵隊を数に入れなくなっていたのか?
彼はまさに今、井戸の中へ槍を突き込まんとしていたようだ。
名も知らぬ一般兵の、ただ突き。
それが命の花を散らさんと、か弱き乙女の胸を貫こうとしていた。
あたしは他にどうしようもなく手を離し、再び井戸の底に墜落する。
一瞬の浮遊感とともに肩にマウントするコンバットナイフを抜いて、穂先をかわしてみせた。
我ながらファインプレイの超絶技巧、やっててよかったナイフコンバットといったところだろう。
けど正直、あたしはあまり運がいいほうじゃない。
どうやら乱戦の最中、すでに損傷していたらしい。
頑丈なはずのコンバットナイフが、いきなり真っ二つに折れて弾け飛んだのだ。
しかも墜落の衝撃で背中を強打し、あたしは決定的な隙をさらしてしまう。
勝利の確信に、兵士は唇の端を
対するあたしは〈武器ロッカー〉からM-18ハンドガンを、ダメだ!
間に合わない!?
そう思った直後、いきなり金属を打つ甲高い音とともに兵士の
そして前のめりに倒れ伏す男の向こうから、二枚の愛らしいネコ耳が現れる。
少年は
「は、はは、戻ってきちゃいました」
「バッ……!?」
今すぐセトくんをきつく叱らねばならなかった。
罪悪感より、自己犠牲より、夢や憧れよりも、まずは自分自身を守ってくれるほうが、ずっとずっと、ずっと大事なんだ。
ほら、オーガの立てる地響きがますます激しく大地を揺るがしている。
前からも後ろからも、右からも左からも。
ああ、井戸の中にも巨大な影が落ちてきて……
セトくんの顔が持ち上げられ、たちまち絶望の蒼白に染まっていく。
タイムアップだ。
あたかもそれを肯定するように、重々しい風切り音が
イヤだよ。
キミのことリセットしなくちゃ、あたし戦えなくなっちゃうよ。
悲しみに足首を掴まれる前に早く忘れなくちゃ、リセットしなきゃ、リセットしなきゃ、リセット……
なのに身体は勝手に少年へ向かって腕を伸ばし、直後に鼓膜の奥で振動する不快な音が破滅的なまでに増幅した。
ギャオオオオオオオオッ!!?
オーガたちが一斉に悲鳴を上げ、両手で耳を塞ぐ。
あたしは凄まじい怪音に耐えながら、それでもセトくんを井戸の中に引っ張り込んでいた。
「なっ、なんの音なの、これ!?」
「マムルークだ……砂漠の戦士たちが吹き鳴らす戦いの角笛です!」
どう考えたって角笛なんてレベルの音じゃないでしょ。
モスキート音を何百倍にも増幅したような音は不快指数の限界を振り切って、精神のガラスに直接爪を立てられてるみたいに鼓膜を
いや、セトくんが平気そうにしてるのを見るに、これは普通の人間の
あたしは慌てて聴覚を調整し直し、苦しむオーガたちの隙間から外の様子をうかがってみる。
すると砂の丘陵を超え、騎馬の戦士たちが次々と姿を現すのが見えた。
頭にはターバンかストールのようなものを分厚く巻き、身体にも布製のクロースアーマーか、せいぜい
しかも全員バラバラの鎧を着ているせいで、一見すると盗賊かなにかのようだった。
けど騎兵に続いて歩兵が現れると、敵の騎馬隊はほとんど一瞬にして追い散らされてしまう。
戦闘力の差は歴然としたものだとわかる。
特に先頭を駆ける騎士は、他とも明らかに一線を
馬が小さく見えるほどの長身、手には槍とも斧ともつかない重量武器を軽々と
オーガの群れを前に怯む様子もなく、騎士は――そう、騎士だ。
まるで顔を隠すようにフルフェイスのヘルムをかぶり、他の戦士とも変わらぬ粗雑な作りのレザーアーマーをまとっている。
なのになぜか、あたしにはすぐに彼が騎士だとわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます