第29話 迷子のJK、猫人を救う その10



 けどM-4カービンの三点バーストが、オーガの顔面を撃ち抜くほうがわずかに早かった。


 もっとも、5.56mm弾ではやはり威嚇いかくにしかならない。



 あたしはオーガの股下をすり抜けながら、閃光手榴弾のピンを抜く。


 直後に戦場を包んだ白光びゃっこうに紛れ、ついにあたしはへ飛び込んでいた。



 それは狙撃手と重度のFPS中毒者にとっては、共通のやまいのようなもの。



 おそらく敵からはあたしが忽然こつぜんと姿を消したように見えたろう。


 でも始めに集落の入り口に立ち、を見たときから、あたしはいざとなったらこの中にこもって戦うと決めていた。



 縦穴というのは真上から攻撃されない限り、砲撃などでも破壊するのは難しい。


 壁や塀といったような遮蔽物しゃへいぶつを壊すのとはわけが違う。

 地形ごと吹き飛ばすほどの圧倒的な火力が必要となるからだ。


 近代兵器の誕生以降、人類が塹壕ざんごうを掘って戦うようになったのは、そのためだ。



 事実、井戸の中にはまだ投石の破壊が及んでいない。


 ここからならオーガの脅威を最小限に、一方的に反撃することもできるだろう。



 あたしの手の中で、M-4カービンが無数の小さな立方体となって分解されていく。


 代わりにまた新たな立方体が次々と湧き出し、ずしりと頼れる重量感になって大口径のライフルへと置き換えられた。



 バレットM-95対物アンチマテリアルライフル。


 この銃はセミオートマチックのM-82をより狙撃に特化させた改修型であり、手動給弾しゅどうきゅうだんに切り替えられたことで、さらなる反動軽減を実現している。


 しかも引き金の後部に弾倉を配置するブルパップ方式を採用することで軽量化、長銃身化まで果たしていた。



 つまり命中精度と射程距離が段違いってこと。



 井戸の中から顔を出し、先ほどあたしを襲ったオーガを照準する。


 至近距離から発射された12.7mm徹甲弾てっこうだんは、大鬼の頭蓋骨をシュークリームみたいに破裂させて中身をぶち撒けてしまう。


 けど弾丸の持つ膨大な運動エネルギーはなおも止まらず、背後の二階建て家屋のレンガ壁まで粉々に吹き飛ばしていた。



 もちろん、こいつの威力がラプア・マグナム弾をも凌駕りょうがするのは言うまでもない。



 続けてケット・シーを追うオーガを狙い、後頭部を爆砕させた。


 M-95の射程距離を考えれば、三百メートルの狙撃なんてアクビが出るほどイージーだ。



 これには他の大鬼や騎馬隊までもが、慌てて足を止めてしまう。


 当然、止まったまとを外すほど、あたしはやさしくできていない。



 さらに都合、五体の騎馬とオーガを吹っ飛ばしたところで、井戸の中に頭を引っ込める。


 直後に無数の投石が周囲に着弾するが、もうそれを恐れる必要はなかった。



 いっそ最初からM-95を使えばよかったと、あたしだって思う。

 けど、そうはできない事情があった。



 それは〈ライブラリ〉と並ぶ、もうひとつのチート能力〈武器ガンロッカー〉の性能による――



 〈武器ロッカー〉は、あたしが自分の物と認識してる武器だけを自由に出し入れできる能力らしい。


 戦闘中、次々と武器を持ち替えることができたのは、もちろんこの能力のおかげである。



 自分の武器であれば、たとえ世界をまたがっていても取り出すことができる一方、借りた物や訓練でちょっとだけ使ったことがあるみたいな武器は取り出せないルールらしい。


 あたしが自分の物と認識してる対物ライフルは、このバレットM-95だけなのである。



 ただ、〈武器ロッカー〉には致命的な弱点があった。



 それは弾丸を取り出すことはできないってことだ。


 もともと銃に装填そうてんされてる分と手持ちの弾倉を撃ち尽くしたら、即弾切れとなってしまう。


 補給の受けようがない異世界では、それでおしまいってわけ。



 おそらく、あたしは弾丸をただの消耗品としかとらえていない。

 こういうのは自分の物とは判定されないようなのだ。



(あたしが持ってる12.7mm弾は、残り二十発。

 残りのオーガは十九体か)



 仮に全弾命中させたとしても、手持ちの弾をほとんど撃ち尽くすことになってしまう。



 けどもう贅沢は言ってられない。


 すでに疲労もピークに達しつつあるが、限界の残り火をここで焼き尽くしてやろう。



 紅い瞳にほむらを宿し、再び穴倉から顔を出したときだった。


 星座を揺るがす凄まじい叫喚きょうかんとともに、数十もの巨大ハンマーで大地をぶっ叩くような途轍とてつもない震動が巻き起こる。



 投げる岩がなくなったのか、仲間をやられて興奮してるのか。


 残りのオーガたちが一斉に駆け出し、こちらに猛然と突っ込んでくるところだった。



「マジ?」



 三百メートルの距離は、人間でも四十秒とはかからない。

 オーガならもっと早く駆けるだろう。



 それまでに全員れなければ、挽肉になるのはあたしのほうだ。



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