第18話 JK狙撃手は猫人たちの集落に到着した 2-4
それから足を
けど出入り口に立った時点で、なにか期待とかけ離れてた雰囲気を察してしまう。
集落の周囲は腰の高さほどの塀で囲まれ、その中にレンガ造りの原始的な家屋が並んでいる。
もはや田舎というより
当然ながらコンビニの一軒も見当たらず、スマホの充電を借りるのだって諦めたほうがよさそうだ。
その上、灯りのひとつも
寝静まってるのとは、また違う。
誰もが息を詰め、呼吸の音さえ聞かれたくないという物静かな緊張が漂っている。
あたしにとっては、肌に馴染んだ空気感だ。
「ひょっとして、あんまり歓迎されてない感じ?」
「い、いえ、そんなことありませんよ! たぶん」
セトくんはやさしい子らしい。
でもケット・シーたちは玄関や窓からネコ耳をはみ出させ、こちらの様子を窺うだけで視線を向けるとスッと奥に引っ込んでしまう。
なにそれ可愛過ぎん?
あの中に、もふもふパラダイスが広がってると思えば今すぐ飛び込みたくなってくる。
けど空気が読めないことに定評のあるあたしも、そんなことしたらただの変質者だってことくらいわかる。
ここまであからさまに警戒されてる中、実行するほどチャレンジャーじゃない。
「きっとみんな、ナーバスになってるだけなんですよ」
「一応、理由聞いてい?」
肩にかけられた左手には、細い金属板を繋ぎ合わせた白銅色の腕輪が光っていた。
「実は人間たちが戦争を始めてしまって、僕らケット・シーは巻き込まれないよう街を離れ始めてるんです」
「やっぱりかー」
人間ってのはいつの時代も、どの世界でも戦争してんだね。
道理で肌に馴染むはずだ。
街を離れてるってことは、つまりここは集落ではなく難民キャンプってわけだ。
そういうとこに戦術セーラー服を着て立ち入ると、だいたいこういう雰囲気になるんだよね。
突然やってきた余所者が、自分たちを故郷から追い出した人間と同じ匂いをさせてれば警戒しないほうがどうかしている。
「あの、お姉さん? ここまでありがとうございました、もう下ろしてもらって大丈夫ですから」
「平気なん?」
「ええ、だんだん痛みが引いてきたみたいですし。
こ、これ以上はお姉さんに迷惑かけられませんから」
背中から降ろしてあげると、セトくんははにかむようにそう言った。
いい子なので、頭をいい子いい子してあげる。
間違っても他でモフれない分、セトくんでモフっておこうってわけじゃない。
「あ、あの、お姉さん? 恥ずかしいですよ」
ちゃんと柔らかくてあったかい。
あらためて、彼のネコ耳が本物だと手のひらに残る感触からも実感してしまう。
おかげで、なかなかのモフモフ成分を補給できた。
「一応、許可を取ってきますので、ここで待っていてもらえますか?」
「お願い」
セトくんが集落で一番大きな家に入っていくと、すぐに言い争うような声が聞こえ始めた。
やっぱり歓迎はされてないよね。
あたしはさりげなく集落の様子を観察してみる。
ここではなにか家畜を育てていたみたいだけど、
藁はまだ柔らかそうで、そう古くはなっていないようだ。
さらに
その上、なぜか井戸まで埋め立てられている。
浅くなった井戸を見て、つい人が隠れるのにちょうどいいなんて考えてしまうのは、無意識に
これは狙撃手と重度のFPSマニアにとって、共通の
けどもちろん簡単に水を得られないことのほうが、はるかに問題だ。
砂漠の集落としては、致命的と言っていい。
ただ、このことからいくつか推測できることもある。
おそらくセトくんたちがこの集落に来たのは、つい最近だ。
そして、その寸前まで集落には他の住民が暮らしていた。
もちろんケット・シーたちの正体が実は盗賊だ、なんて言いたいわけじゃない。
井戸が埋められてる時点で、この集落はなにか事情があって放棄されたと考えたほうがすっきりする。
戦争、難民、砂漠、埋められた井戸――
考えられることは、そう多くない。
「あたしの想像通りだとすれば、ここには長居しないほうがよさそうだ」
とはいえ連日砂漠を歩かされ、あたしもかなりの疲労を感じている。
単純な筋肉痛やスタミナの消耗に加え、暑さと寒さのダブルパンチで溜まりに溜まった疲労物質は、とっくに人体の許容量を超えている。
今のあたしにはスーパー銭湯でお風呂に浸かり、サウナで整ったあと、休憩室でだらだらマンガを読むくらいの権利はあると思う。
けど身体を拭くことさえ難しいのは見ればわかる。
なので一晩休ませてもらって、もっと大きな街へ行く方法を教えてもらおう。
おそらく、それがベストだな。
方針が決まったところで、タイミングよくセトくんが戻ってくる。
「許可がもらえましたので、どうぞこちらへ」
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