第14話 オジさん騎士、砂漠の戦場にネコをみつける その5



 オジは手綱たづなをしならせ、馬を限界まで加速させていく。



 それでも巨石の雨が次々と脇に着弾し、爆発じみて砂を巻き上げる。


 人間ならカタパルトでも用いなくては、到底、不可能な攻撃だろう。



 だが人外の膂力りょりょくを誇るオーガどもはスリングショットを片手に、一抱えもある岩をブンブンと振り回しながら軽々と投擲とうてきしてくる。



 オジは盾を掲げて飛び散る破片を防ぎながら、さらに馬腹まばらを蹴る。



 分厚く立ち昇った砂煙すなけむりの幕を抜けた先、眼前にいきなり二頭のデザートウルフが迫っていた。


 その背には、痩せ細った子供ほどの体格しかない小鬼の騎手ゴブリンライダーが振り落とされることなく、騎乗している。


 しかも肩の上に投げ槍を溜め、こちらへ狙いを定めていた。



 突然、左のゴブリンが頭を粉砕された。

 少ない脳みそとともに白い骨が鮮やかに散っていく。



 おそらくはJKの援護射撃だ。



 けど振り返って確認するほどの余裕はなく、もう一頭が投げた槍を盾を斜めに弾き飛ばす。


 すれ違いざまオジは鋭く息を吐き出し、波打つ筋肉の躍動に任せて超重量のバルディッシュを振り抜いていた。



 グランフェル男爵家には極圏きょっけんに棲まうドワーフの血が混じるといわれている。


 矮躰わいくとされるドワーフだが、オジは頑健な骨格と厚みのある筋力を受け継ぎつつもズバ抜けた長身を誇る偉丈夫いじょうぶであった。



 今回、彼が持ち込んだバルディッシュはあくまで既製品に過ぎなかったが、常人では持ち上げることさえできぬ重量武器である。



 ゴブリンの首が、デザートウルフの上半身とともに宙を舞う。

 遅れて噴き出す真っ黒い血が渇いた大地をうるおしていく。



 それでもなお、鯨波げいはとなって押し寄せるゴブリンライダーの大群は、視界を埋め尽くすほどに幾重いくえにも列をなしていた。



 しかし次の隊列とぶつかる寸前、オジは突如として馬首を反らし斜めに駆け始めた。


 ゴブリンたちはそれを逃げたと見なし、デザートウルフを並走させて猛追してくる。



 直後、小鬼の群れが巨大な質量によって押し潰される。


 血と内臓が打ち上げ花火のように上空へ巻き上げられ、はかなき一瞬の光となって四散していく。



 オーガたちは味方を巻き込むのもかまわず、投石をめていなかった。



 モンスターどもは種族が違えば、もう連携して戦おうなどと考えもしない。

 殺戮さつりくの興奮にたけり、本能のままに暴れ狂うだけだ。



 仮に足を止めて小鬼どもと乱戦を演じていたら、オジも一緒に内臓をブチける羽目になってたろう。



 だが知ってさえいれば、そんなのはどうということもない。


 膂力りょりょくで上回る怪物たちを相手取り、今日まで人類が生き残ってこれたのは協力し合う知恵と勇気があってこそだ。



 慌てたゴブリンどもが隊列を乱す。


 オジは次々と馬首まくびを巡らせ、その隙間をってジグザグに進行方向を変えながら駆けていく。



 またもすぐ隣で、小鬼が原型をとどめぬほど破壊されて吹っ飛ばされる。



 そうして、ついにゴブリンライダーの戦列を抜けた。


 オーガによる投石は脅威であるからこそ、それを利用して活路を見出すこともできるのだ。



 おかげで、敵のふところかじりつけた。



 オジを乗せた馬は疲労のためか荒々しく鼻を鳴らすものの、未だ脚を緩めず手綱たづなに従ってくれる。


 オーガの部隊に向けて、みるみる距離を詰めていく。



「いい馬だ」



 たてがみを一撫でし、オジは大鬼とも呼ばれる怪物に対抗するためくらの上にブーツを乗せて立ち上がる。


 正面のオーガもまたスリングを捨て、岩を削り出して作った棍棒を掴む。



 長身のオジであっても馬の背に立って、ようやく目線が合うような巨体である。



 オーガは顔の半分を覆うひげの中から鋭い牙を剥き出しに、身震いするような雄叫びを上げていた。


 大木のような足を重々しく大地に叩きつけながら、猛然と突き進んでくる。



 だが、いきなり馬体が真横に吹き飛び、オジは虚空こくうに投げ出されてしまう。



 他のオーガが放ったスリングショットが、横合いから彼の馬を肉の塊に変えてしまったのだ。



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