第12話 オジさん騎士、砂漠の戦場にネコをみつける その3
前衛に展開するモンスターに気を取られ、その後方で人間たちがかまえる
実際、
だがなにか動くものが、荒縄で乱暴にくくりつけられているのはわかった。
すべての大盾にだ。
もっとも、耳鳴りがするほどの音量で届けられる鳴き声によって、その正体は明らかだった。
間違いなくネコだろう。
わざわざ拡声魔法を使い、振動の
「なんということだ! 敵はネコを人質にするつもりかっ」
「やっぱりネコだよね」
「見えていたのですか!?」
「うんまあ、でもなんで子ネコなんか盾にくくりつけてんの?」
オジは味方の陣地を振り返る。
筋骨隆々の傭兵たちのなかに突然「神よ!」と叫んでひざまずく者がいる。
帯同してきた従軍神官たちが本陣まで押しかけ、憐れを
特に勇猛で鳴らす砂漠の戦士マムルークたちの混乱は
天を仰いで嘆き、運命を呪う言葉を吐き散らしていた。
「まさかと思うけど、ネコが可愛くて戦えんってこと?」
「貴女がそのローブを羽織っているのと同じ理由ですよ」
この地方では、ネフェル神の使いであるネコを傷つけることは大罪である。
わざわざローブにネコ耳の飾りがついてるのも、間違っても巡礼者を傷つけることがないよう
「そっち系かー」
JKも厄介なことになったのを理解してくれたらしい。
この戦が始まったときも、人間より先にネコの
だが数日前、よりにもよって帝国軍は神の使いたちの疎開先を襲撃してきた。
そのことは事前に報告が上がっていた。
帝国がどうやってそれを知ったのか疑問は残るが、結果的に
その上、敵は魔物だけで三千、人間の兵は一万五千にも及ぶのだ。
対してこちらは主力であるマムルークの騎兵隊三千、傭兵隊六千を加えても九千しかいない。
代わりに地の利を生かし、左右を岩山に挟まれた峡谷に堀や馬防柵を張り巡らせ、強固な野戦陣地を築いて待ち構えていたのだ。
仮にハンマードレイクを突撃させてきたとしても、より多くの出血を
こちらは時間を稼ぐだけで、遠征軍である帝国はいずれ干上がってしまう。
充分に勝ち目はあると踏んでいた。
でも、だからこそ敵将は奇策に打って出たんだろう。
そのとき大盾を構える兵たちが左右に割れ、敵陣から派手な兜をかぶった男が出てきた。
あれが今回の遠征軍を率いる将か。
『我々は帝国ぐ(ニャーニャー)にして(ニャーニャーニャー)である!
これ以上の戦いは(ニャーニャーニャー)よって、直ちに降伏(ニャーニャーニャーニャー)』
ダメだ。
ネコがノイズになって、まったくと言っていいほど頭に入ってこない!
拡声魔法は周囲の音もいっしょに増幅させてしまうのが欠点だ。
だが冷静に考えて、危機的状況にあるのは我々カガラム側だろう。
「ど、どういたしましょうッ、グランフェル卿!?」
「ひとまずっ、ネフェルの信徒は後方に下げましょう!」
「よろしいのですかッ!? 敵はモンスターも入れて一万八千の大軍ですよっ。
ネフェルの信徒をすべて下げてしまえばッ、
こちらはたったの五千で戦わねばならなくなりますっ!!」
「
副長が
オジも負けじと同じ声量で怒鳴り返す。
ただしそれは、ニャーニャーニャーニャーニャー、こちらの陣地にもずっと鳴り響くせいで、大声を出さないと会話が成立しないせいだ。
もうわかったから、早く音量を下げてくれ!
「ですがッ、盾にネコをくくりつけられていては、
おのれ、帝国軍めぇ! なんと残忍なことを思いつくんだッッ」
「落ち着いてください、副長! 貴方はネフェルの信徒ではなかったはずですっ」
ただでさえ数で劣る防衛側が、飛び道具もなしでは戦いようがない。
だからといって万一ネコに当ててしまったら、ネフェルの信徒たちは味方の傭兵隊をも攻撃しかねない。
宗教とは、そういう厄介な側面も持っている。
なんとかここで盤面を
『見ての通り(ニャーニャーニャーニャー)決して悪いようには(ニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャー)』
もう完全に何を言ってるのかわからない!
それに気づかず、敵将はまだ真面目腐って演説をぶっている。
いったいいつまでしゃべってるつもりなんだ!
完全に緊張感が迷子になっていた。
こちらの本陣では神官たちが勝手に白旗をあげようとし、激怒した将軍に叩き斬られて枯れ井戸に放り込まれていた。
おそらく、戦う意思がない者は全員同じ目に遭わせるとでも叫んでいるのだろう。
それらもすべてニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーという雑音の中で行われていた。
地獄だ。
このままでは
だいいち、この暑さで大人のネコだけでなく、子ネコまで盾にくくりつけるなど正気の沙汰ではない。
熱中症になったらどうする気なのだ!?
ネコがかわいそうだろうがッ。
現に無数に重なる鳴き声の中に、徐々に弱々しくなってる声が……
(って、違うでしょう!?)
いつの間にか、オジまでネコを中心に物を考えている。
オジは自分がもう、いつ爆発してもおかしくない状態だと自覚する。
そのとき予想だにしないことが起きた。
いきなり、聞き覚えのない炸裂音に後頭部をひっ
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