第3話 スナイパーJK、異世界転移する その3


 

 わからない、私は率直にそう答えていた。


 〈庭〉というのは超人を生み出すべく戦災孤児を集めて、人道? なにそれ美味しいのってレベルの研究を行っていた非合法機関のことだ。



 私もあまり詳しく思い出したくないのだが、ブチキレた政府が特殊部隊を送り込んで壊滅させる程度には激ヤバ。


 そう聞いてみんなが想像することと、それほど大きくズレてないんじゃないかと思う。



 なにせ〈庭〉では訓練中はもちろん、自室以外では常にマスクを身につけることが義務付けられていて、同じ施設で育った私でさえ他の子たちがどんな顔をしてたのかも知らない。



 あのなかに真っ白な髪の非人間的な容姿をした子がいたと言われても、ありえると思える程度には過酷な環境だった。



「ま、歌舞伎かぶき連獅子れんじしみたいな白髪の女子高生が実在するかって聞かれたら、私も信じてるわけじゃない。

 だけど近塔こんどう、あんた前に言ってたわよね?」



 未冥みめいは顔から緊張を解いて、笑みを浮かべて見せる。



「有名になるような狙撃手は二流だって」

「それは……」


「あんたがスコアを少なく申告してるのを知ったときは正直バカらしいと思ったけどさ」



 ……思ってたんだ。



「今はあんたの言う通りかもって」



 彼女は笑みを浮かべたまま、熱のこもった瞳でまっすぐに私のハートを照準する。



「〈鮮血せんけつ白百合しろゆり〉を仕留める狙撃手がいるとしたら、この戦区じゃ近塔こんどう、あんただけだよ。


 いざってときは班のみんなを守ってよね」



 最後に未冥みめいは照れ隠しのようにそっぽを向いてしまう。



「ま、こんなところに現れるとは思えないけどさ」



 そのときは私もまだ、フラグやめてよと突っ込む程度には余裕があった。



 思い返せば、未冥みめいは常識のない私に根気よくつき合ってくれた。


 この赤い瞳はあまりに非生物的な輝きを放っていて、お人形の目玉に人工の宝石を引っつけたと言われたほうがしっくりくるくらいだ。



 おかげで、ひと目見て〈庭〉の出身者とわかってしまう。



 ヤバいヤツと敬遠されるほうが普通で、実際、私も含めてあそこにまともな子なんてひとりもいない。


 オシャレも恋バナも、みんなが行くチェーン店での注文の仕方も、私に戦場以外での生き方を教えてくれたのは未冥みめいだったように思う。



 そんな彼女から受ける信頼はとても心地よく、胸の奥を柔らかな暖かさが満たしていく。


 だからだろう。



 有名になりながら、なお生き残るような狙撃手は別格だ――


 その言葉はついに口にできなかった。


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