第13話 観光。そして特訓
「う~・・・頭、いてぇ。あのおっさん・・・」
〈鋼の山羊〉のスミスとの会談(飲み会)を終え、タビトはカルカトリヤのどこかの裏路地へと戻ってきていた。日が昇りそうな時間帯だった。
頭がガンガンして具合が悪いが、なんとか頭を働かせる。
(えーと、宿屋・・・公的なところじゃないと安全保障はできないと)
プレイヤーが格安と銘打ってやってるところは百パーセント危ない。ゲームのシステム上存在している宿泊施設はベットのような宿屋のマークがどこかに彫られている。
(そこでとりあえず身体を休ませて、闘技場に・・・)
そう考えながら歩みを進めるも、おれはふにゃふにゃと身体の力が抜けていき、路地のそこらへんに転がっていた木箱やらビンやらに突っ込んでいった。
ガッシャーーーンッッ
「きゃあっ!!」
「えぁっ?」
なにか柔らかいものが手に触れているような。
「な、なにすんの酔っ払い!」
頬を叩かれる。
「いてっ!」
「あやまって!」
「ご、ごめんなさい!」
申し訳なさとその勢いで平謝りしていると、そこで相手はこちらに気付く。
「あ・・・見覚えある顔。店で全然注文してなかった子ども」
こちらも相手に気付く。
「ユ、ユウアさん・・・?」
酒場で働いていたあの少女だ。
「ユウア?・・・私は確かにそうだけど、なんで知ってるの?」
!!・・・名前も一緒なのか。
「いや、そんな気がしただけで・・・」
誤魔化すが、やはり相手は自分のことにはまったく気がついていなかった。
つまり、あのユウアさんとは同名でそっくりの別人・・・
「あなた、あの時はノンアルコールにしてあげてたのに結局お酒飲んだわけ?子どもでしょ!」
(あ、あれノンアルコールだったんだ・・・というかユウアさんも同じくらいの年齢だろう)
そんなことを思いながら・・・
「いやあの、おれここに来たばっかで・・・観光。じゃないですけど、一緒にどうでしょう」
誤魔化しついでに口からわけのわからない言葉がでていた。酔いのせいだ。
「はあ?」
「い、いや・・・知り合いに似ていたんで、これも何かの縁かなって・・・」
「・・・わかったわ」
!!
「あんたあんまり強くなさそうだし、来たばっかっぽいし、今日なら空いてるから。しょうがないわね」呆れ顔でそう言った。確かに言った。
「え・・・やった!」
無意識に万歳ポーズをとっている。
「だからとりあえず宿で酔い覚ましてきて!私はもうちょっと後片付けあるから」
その万歳ポーズのおれの頭をパシッと叩く、これはお酒のおかげだ。
「はい!!」
約束の時間、待ち合わせ場所を決めたあと、駆け足で宿屋を探す。
無難な名前の〈カルカトリヤ第二宿屋〉を発見して、そこで宿をとることに決めた。料金を先払い(一日分だけ〈鋼の山羊〉に借りた)して名簿に名前を書き込む。宿屋の店主は「仮ホームの登録を完了しました」と言って、狭いが居心地の良い部屋に案内した。
※仮ホーム・・・特定の場所に設定できる仮のホームで、テキストやプレゼントボックスを確認できるが、本ホームに存在する収納は共有しない。特定の条件のもとで時限的である。
(酔い覚まし!酔い覚まし!酔い覚まし!)
頭の中で唱えながら、ガーっと冷たいシャワーを浴びる。
(約束の時間までまだある・・・な・・・)
「やっべ!!」
寝落ちして気付いた時は、待ち合わせ時間の直前だった。
勢いよく約束の場所へ走り出す。闘技場に行くのは、まあ後だ。
大通りから西側。街を歩いているときにも目立っていたのは尖塔の荘厳な建物だ。
「ここは〈カルカトリヤ・ガイアス大教会〉。大地の神さまたちを信仰していたって言われるカルカトリヤ最大の教会」
天井はかなり高く、なにかの紋様をカタチ作った大きなステンドグラスが左右の壁にある。最奥には崩れた像。教会らしい神秘的な雰囲気だが、寂れている。この都市、いやこの世界はどこもそうなのかもしれない。どこか陰鬱な雰囲気。
「信仰していたってことは、今は・・・」
「この教会を建てた組織の人たちはもういないらしいの。でもこうやって中には自由に入れるから、祈りに来ている人は多いわ。私もたまに来るの」
黙々と祈りを捧げている人・・・おそらくプレイヤーたちがいる。元々何かの宗教を信仰していた人か、この世界にやってきてから祈りを捧げるようになった人か。そうなる気持ちは強くわかる。
「〈カルカトリヤ城〉。ここも中には自由に入れるわよ」
「お城に入るのは初めてだな」
「へぇ、確かに縁がなさそう」
「どういう意味だよ」
痛いところをつかれている気がする。厳しいコメントだ。
治める者がいない国の、治める者のいない城。例にもれず、いや、教会以上の広さを誇るこの城は寂れ廃れていた。まるで時が止まったような静けさだ。
「・・・ここは」
「〈玉座の間〉よ」
大きな椅子。ファンタジーで見る王様が座る椅子。正に玉座。
誰も座る者がいない玉座だ。
(「王職」。それを手にした者がこの玉座に座るのだろうか・・・まあシステム上の話なのだが)
「座ってみれば?」
ユウアが何気なくそう言ってくる。
「え?」(まあ・・・確かに今座ってもなんの問題もないのだろう。実際になにかが起こるというわけではないはず。もしそうだとしたらとっくに他のプレイヤーがどうにかなっている)
「いや・・・おれには縁がなさそうだからやめておくよ」
「なに?さっき言ったこと根にもってるの?」
「そういうわけじゃないよ」
ただ、今のおれはなぜだかそう思った。
「最後は、〈カルカトリヤ・剣の闘技場〉ね」
「〈剣の闘技場〉・・・」
「今日はありがとう。おれ、闘技場でやることあるからいかないと」
「そうなの?武闘派には見えないけど」
「まあ・・・でもやんなきゃいけないよ」
おれはユウア・・・そっくりな彼女がここにいたからこそ、気持ちが溢れてくる。
強くならなければいけない。なにも失わないために。
「・・・そっか!じゃあ夜は〈鉄火場の山羊〉で待ってるわよ」
かなりの大きさの円形闘技場の入口にはいる。
ちらほらとプレイヤーらしき人が中にたむろしていて会話をしていた。その中の一グループ、筋肉隆々でアシンメトリーな鎧をつけた一団がちらりとこちらをじっと見つめてくる。
あからさまに。
その視線に殺伐とした居心地の悪さを感じながら、中心のカウンターらしきところに向かった。
闘技場のカウンターにはNPCらしい受付が一人いて、テキストが表示されていた。
【対プレイヤー】
・フリー
・レーティング
・ルーム
その近くの掲示板にも近づくとテキストが表示されている。
【その他】
・ヘルプ
・レーティング確認
・闘技場プレイヤー名簿
テキストの内容を見ながら考える。ターナーには「強くなれ」的なことは言われていたが、この闘技場に参加しろということなのだろう。【対プレイヤー】。ルームがあらかじめ決めたプレイヤーと争うことなら。フリーかレーティングか。
「おい」
「・・・」
「おい」
「・・・」
背中側から低くてかなり小さな声が聞こえる・・・気がする。
「おい、イセタビト」
「!?」
自分の名前が聞こえてきて、振り向く。
闘技場に入った時にこちらを鋭く睨んでいた一団の一人だった。正に戦士・・・世界史の教科書で見たような身体を出した鎧を身に着けた男だった。ギラギラとした青い瞳。一目で無骨そうな、恐ろしいような雰囲気を感じる。
さらに恐ろしいのは、彼の背後で同じような恰好をしている数人もこちらに睨みを利かせているところだ。微妙に距離が近い。
「今、おれの名前・・・」
おそるおそる目の前の男に返答する。
「呼んだが」
「〈鋼の羊〉の・・・?」
既にこの都市で自分の名を知っている。その組織のメンバーかと思い尋ねてみる。
「違う」
「じゃあ、なんでしょう」
「・・・ターナーだ」
元々小さい声のさらに小声でいう。
(ターナー・・・!)
「お前の稽古をつけろと言われている」
「あ、そういう・・・」
「オズマだ」
「イセタビトです」
「知っている」
「・・・」
全く話は盛り上がらない。少なくとも仲間・・・のような立場ではあるはずだが。
「ルームだ。お前の特訓相手はオレたち【剣闘士】が務める」
そう言うと、オズマは後ろに控えていた鎧の一団に目を向ける。
槍の【剣闘士】リーリイ
斧の【剣闘士】エドマン
鎚の【剣闘士】ゴール
「「「・・・」」」
オズマを含めた四人の【剣闘士】。そのうちの三人は背後に控えてるだけで一言も発さなかった。無言故の威圧感はすごい。
「あ・・・よろしくお願いします」
「「「・・・」」」
誰も返事をしないので、とんでもなく気まずい。
「受付で「対プレイヤー」「ルーム」だと伝えて・・・あとはどうするんでしょう?」
そうオズマに尋ねると、オズマは受付に向かってジェスチャーする。
(こいつと、こいつと、こいつと、こいつと・・・)
という風に一人ひとり指差して「よろしく頼む」とぽつりと言う。
「かしこまりました、闘技場のほうにお進みください」
オズマ達について後ろを歩く。
「他の誰かがこの闘技場をつかっていても、一緒の空間になることはない」
「オズマさんたちは【剣闘士】って・・・闘技場にぴったりですけど、やっぱりこの場所が好きなんですか?」
おれは気まずくて話しかけた。
「オレたちはこの闘技場のNPCだ・・・」
・・・!!
何かを気にしたのかオズマは釘をさすかのように言う。
「だから遠慮なく命を懸けたつもりでくるんだな・・・」
目覚めた世界はオンライン死にゲー!?特殊職業【亡骸喰い】で生き残れ JB @redtal073
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