東京

 スーパーマーケットのアルバイトからの帰り道、川辺の散歩道を歩いていると春のぬるい風が僕の頬をなでつけた。太陽の日差しは冬と比べると日に日に強くなり、街の緑は青々しくなっている。


 故郷の雪国から東京にやってきた僕はこの4月から東帝都社大学に通うことになっている。


 アパートは大学まで自転車で通えるところに決まった。賃貸マンションで家具や電化製品もはじめから付いている便利なワンルームマンションだ。その代わり家賃は実家周辺と比べると倍近くする。親からの仕送りと昨日から始めたスーパーマーケットのアルバイトの給料が僕の生活資金だ。


 大学の入学式は明日だ。ワクワクはしないが、退屈な気持ちでもない。でも僕にとってターニングポイントになるような何かが始まりそうな気がする。具体的に思い浮かべることはできないが、なんとなくそういう気がするのだ。  


 川に架かっている下町情緒溢れる橋を渡っていると、目の前から女子高生が歩いてきた。黒髪が腰の位置まである子だった。すれ違いざまに僕は挨拶した。すると相手は驚き、目を白黒させた。見知らぬ人に挨拶をする習慣はないのかなと思った。そして女子高生はそのまま何も言わぬまま僕と反対方向に歩いていった。顔ははっきりと見えなかったが、目が大きくて、割と可愛い系の顔だった。優しくて繊細そうな感じの子だった。


 しばらくぼーっと10分程歩くとアパートに到着した。まだ自転車は買っていないから、今はまだ徒歩が僕の行動手段だ。家の中に入って、テレビをつけて寝ながらそれを観ていると、うっつらうっつらしてきた。いつの間にか僕は昼寝をしていた。


 「ピンポーン!」


 インターホンの音で目が覚めた。


 慌てて玄関を開けると、さっきすれ違った女子高生が目の前に立っていた。

 

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雪国のクリスマスイブ 久石あまね @amane11

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