第7話 逢瀬



 よしの屋は料理茶屋である。

 以前、朋輩たちと来た時も思ったのだが、愛想のいい女中に案内されている英之助のさまを見ていると、よく来るのだろうか、と勘繰ってしまい、小三郎は顔をしかめた。


 英之助を意識しだしてから見る目が変わってしまった。

 自分より仲のいい男はいるのだろうかとか、女は嫌いだと言っているが、ほんとうに経験はないのだろうか、などと、みっともないことばかり考えてしまう。


 座敷に案内され、酒肴しゅこうが揃うと二人きりになった。


「静かだな」


 小三郎は、自分の緊張を解こうと縁側に出て外を眺めていると、隣に立った英之助が指を絡めてきた。


「小三郎」


 頬に息がかかる。小三郎は体が熱くなった。


「え、英之助……」

「いやか?」

「そ、そんなわけな……っ」


 強がりのように聞こえたのだろうか。否定したが、英之助に笑われた。


「俺は早く二人きりになりたくて、一日、仕事が手に付かなかった」


 英之助の口からそんな言葉が出るなんて驚きだった。


「お、俺だって、お前のことばかり考えていたよ」

「信じていいんだな」

「うん、信じてほし……」


 言い終わらないうちに英之助が顔を寄せてくる。指で唇に触れてから、頬を寄せると口づけされた。

 唇を吸われたまま右手が衿の中に入ってきて脇下を潜り背中をやさしく撫であげた。

 初めてのことで息をするのも忘れてしまい、体が硬直した。


「きれいな肌だ」

「な、何を言って……」


 こちらは息をするのもやっとなのに、英之助の大胆な行動に驚く。

 強がって目線を上げると、英之助のひたむきな瞳が飛び込んできてくらりとした。再び唇を塞がれ、激しく吸われた。

 恥ずかしさに声が出せなかった。ようやく息をしながら、英之助の手をつかんだ。


「ま……待ってくれ……」


 それを聞いて英之助が笑った。


「それは難しいな。やはり、いやなのか?」

「い、いやというより……。おかしな気持ちになる。くすぐったいような、そんな感じがして……」

「覚えておくよ」


 英之助はそう言ってあっさりと手を抜いた。

 突然、自由になり小三郎はよろめいて縁側に手を突いた。からかわれているのだろうか、とめると、英之助の手が伸びてきて腕を引っ張られた。


「ここはまずいな。中へ入ろう」

「え? あ、そ、そうだな」


 縁側にいたことを思いだす。

 庭先に誰か入って来たらと思うとぞっとした。

 入った時には気が付かなかったが、奥の座敷には衝立があり布団が敷かれてあった。

 英之助はちらりとそちらを見たが、畳に座り、


「少し飲むか」


 と聞いた。

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