第5話 想う相手




 一瞬、目の前が真っ白になった。


 英之助に愛されている男に嫉妬した。

 女であれば仕方がないとあきらめたかもしれない。だが、同性であると云ったとたん、英之助の想う男を憎いと思った。胸をかきむしりたくなるような、そんな苦しい気持ちが込み上げてくる。


「小三郎」

「俺の知っている男か」

「……知ってどうするのだ、その男を斬るのか」


 小三郎は目を見開いて、英之助を見つめた。そして、知らずうちに頷いていた。


「場合によっては斬るかもしれない」

「なんのために?」


 答えるのが難しい。小三郎はきゅっと目を閉じて首を振った。


「分からない、お前が俺の知らない男を愛しているのかと思うと、胸のあたりがざわざわして、どう答えたらいいのか分からない」

「小三郎……」


 目を開けると、英之助が両肩を強くつかんでいた。


「お前の言葉を信じていいんだな」

「英之助、俺はお前の邪魔をしたいとかそんな気持ちはないんだ。俺は……」

「俺が好きなのはお前だ、小三郎」


 最初、なにを云われたのかぴんとこなかった。またたきをすると、英之助がほほ笑んだ。


「だから、俺が好きな相手とは小三郎のことだ」

「俺……を?」

「ああ」


 ぐいと引き寄せられる。


「俺は幼い頃からずっとお前だけを見てきた。一生独身で生き抜くと誓って、お前をずっと見てきた」


 熱い息が耳にかかる。全身の震えが止まらなかった。


「小三郎、震えている」

「いや、あまりに驚いて……」

「ああ……。だろうな、これまでずっと隠し通してきたんだ。いきなりこんなことを云われて驚くのも無理はない。」


 そう云って、英之助が顔を伏せる。小三郎は顔を横に振っていた。


「違う、違うんだ。うれしくて……」


 小三郎がそう云うと、英之助が顔を上げてごくりとのどを鳴らした。


「うれしい……?」

「俺で……、俺なんかでよければ、英之助についてゆくと誓うよ」

「……小三郎」


 信じられないという表情の英之助がじっと見つめている。小三郎は急に恥ずかしくなって顔をそむけた。


「顔を見せてくれ」

「見ないでくれ、俺は今みっともない顔をしている」

「好きだ。小三郎」


 あっと思った時、抱きしめられていた。英之助の体が少し震えている。俺よりも年上の大きな男がこんなに震えるなんて。

 自分の心臓が痛いくらいだった。

 硬い背中におずおずと腕を回した。

 英之助の体がびくっとして、さらに力が込められた。


「しあわせだ……。小三郎」


 英之助の感極まった声が耳に届いて、心臓が大きな音を立てていた。


「うん……。俺も……」


 小三郎は、英之助の肩口に額を押しあてた。そして、時間が過ぎてゆくのを忘れた。


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