第2話 平侍




 柴山小三郎は伊予いよの国、正岡まさおか藩六万石の平侍である。正岡藩の藩主、兵部ひょうぶ少輔しょうゆうは参勤交代を行わない定府じょうふの大名であった。

 定府とは、江戸に在住して藩主に仕えることをいう。小三郎の父も定府を命じられ、小三郎は江戸で生まれ育った。

 小三郎の家は百石の馬廻うままわり組で、江戸上藩邸の敷地内にある屋敷に家族揃って暮らしていた。あと中間ちゅうげんや女中などが寝起きしている。

 小三郎は部屋住みだが、長男なのでよほどのことがない限り父の跡目を継ぐ。


 彼は目鼻立ちのはっきりした顔つきで、遠目からも目立つ容貌をしていた。今年で二十二歳になり、小さめの顔に整った眉、凜とした瞳をしていた。

 笑うと白い肌にはうっすらと赤みがさし、見ている者をやさしい気持ちにさせる。背はやや小柄であるが、手足が長く均整のとれた美しい体つきをしていた。

 外見のせいか女には人気があったが、本人がおっとりしているので、秋波を送られても気が付かない。その上、あの女、眠そうだが大丈夫かな、などととぼけたことを云うので、朋輩ほうばいからは、絶対に女にはついて行くなと注意されていた。

 その小三郎に縁談の話が来たなどと聞いたら、彼らはなんと云うだろう。

 小三郎は一番の友だちである英之助えいのすけの顔を思い浮かべた。



 柾木まさき英之助えいのすけは大身旗本の息子である。彼の父は留守居役と江戸家老を兼ねていた。

 英之助も家督は継いでいないが、小姓組で藩主の近辺の世話していた。

 小三郎と英之助の出会いは、昌平坂しょうへいざか学問所がくもんじょであった。

 小三郎が学問所に入ったばかりの頃、少女のような容姿のため、朋輩にいじめられていた時、二つ年上の英之助が助けてくれた。

 それがきっかけで知り合い、今でも何かあれば英之助を頼ってしまう。


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