第10話 8/18

「おぅ、お前も仕事か。」


「はい。」


「最近見ねーからしんだかとおもったわ。」


中年の男性はそう吐き捨てると首筋を露にし、個人市民証を機械に読み込ませた。この瞬間、この一打刻のために我々は穴蔵から這い出しているのだ。


「管理長、おはようございます。」


「けっ、なにが『おはようございます』だ。バカにしてんのか。しばくぞ。」


エリア3に朝は来ない。日中のほとんどは深い闇であり、わずかな日中は厚い曇で覆われた灰色の空である。それでも「おはようございます」ということが始業時のあいさつであるとマニュアルに示されていた。


「さっさと失せろ。いけ。」

管理長は舌打ちをしながら事務所に消えた。

管理長かいったい何を管理しているのかは不明であるが、大方物品の在庫把握や出勤者の名簿を毎日作っているんだろう。それ自体が彼にとっての「適度な労働」なのである。



纏わりつくような湿気が気持ち悪い。コンテナに投げ入れられている自動小銃をつかむ。

今日は所属している東駅から東南駅への内回りルートだった。線路を歩いて獣を狩る。


意味なんて考える必要はない。

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エリア3 人類生存圏日誌 馬西ハジメ @atode

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