義姉と義弟

 私、桜井冬奈は高校時代に翔梨が住んでいた家の前に居た。今日は久しぶりに真子さん、そして侑李君と会う約束をしていたのだ。


 インターホンを鳴らすと、家の中から誰かがドタドタと走ってくる音がする。そして——


「冬奈ちゃ〜ん!」


「きゃっ! ……ふふ、真子さん、お久しぶりです」


 扉を勢いよく開けて私に抱きついてきた真子さんに思わず苦笑してしまう。


「うん、久しぶり! ……はぁ、良い匂い。じゃなくて、ささ、中に入って!」


「お邪魔します」


「違う、違うよ冬奈ちゃん」


「え?」


 眞子さんがチッチッチッと舌打ちしながら人差し指をピンと立て、振り子のように左右に揺らす。私は何が違うのかがわからずに首を傾げると、真子さんは頬を膨らませながら人差し指の先端を私の額につけてきた。


「冬奈ちゃんの今の苗字は?」


「さ、桜井?」


「そして?」


 そこで真子さんの心の声が聞こえ、真子さんが何を言いたいのかがわかった。


「……ただいま、真子さん」


「それでよし! じゃあ行こっか! 冬奈ちゃんが来たからお茶出して侑李〜!」


 テンション高めなまま真子さんはリビングの方へ歩いて行った。私も真子さんについていく。


「さ、そこ座ってて。侑李を見てくるから」


 真子さんはソファを指差した後にキッチンの方へ歩き出す。夕樹大丈夫〜? 今行きますというような会話が聞こえたすぐ後に2人でリビングへ戻ってきた。


「お待たせ、冬奈ちゃん」


「お久しぶりです、義姉さん。これ、お茶です」


「ありがとう、侑李君」


「侑李で良いですよ。私は一応義弟ですので」


 侑李く……侑李はお茶を目の前のテーブルに置きながら私とそんな会話をする。このお茶、グラスの4分の1くらいしか入ってないわね。


 侑李が私の前に、真子さんが私の隣に座ったところで私の頭の中に1つの疑問が浮かんだ。


「あれ、翔梨は? 確か私より先に来ているはずなんだけれど……」

 

「ああ、兄さんなら私が適当に言いくるめておつかいに行かせています。もう少しで帰ってくると思うのでもう少し待ってください」


「翔梨……」


 どうやら私の夫は義理の弟にパシられているらしい。予想だけど翔梨は優しいから「わかったわかった。俺が行くよ」などと言って呆れているけど満更でも無さそうに行った、と推測する。


「正解です、義姉さん。まさか一言一句違わずに当てるなんて流石ですね」


「……私、どちらかと言うと心を読む側なはずなのだけれど……」


 侑李の言葉に私は驚愕と困惑が同時に押し寄せてくる。


「ていうかさ。翔梨も冬奈ちゃんも侑李も能力持ってるじゃん? 私だけ仲間外れじゃない?」


「確かにそうですが……まあ学力では私達に劣っていないでしょう?」


「そう言えば真子さんはどこに就職したんですか? それに学力は侑李達と同じくらいって……かなり上の大学ですよね?」


 真子さんは長くて白い足を組み、スマホで何かを調べた後に私に画面を見せてくる。


華道はなみち大学を卒業した後にこの会社に就職したよ」


「華道大学……それにここって……」


 画面に映っていたのはここら辺ではかなり有名な会社だった。そして華道大学もここら辺で最上位の偏差値を持つ大学だ。


「でもやめようと思ってるんだよね〜」


「え、なんでですか?」


 その会社はホワイトな職場で有名だ。休みは多いし給料は高いし色々な制度で生活などもちゃんも助けてくれる。そんな好条件の会社をやめるなんてよっぽどな理由が無ければしないだろう。


「ここら辺で1番有名な会社の副社長さんにスカウトされてさ〜」


「ここら辺の……それに副会長って……」


「ただいま〜」


 1人の人物が思い浮かんだ時、聞き慣れた愛しい人の声が聞こえた。


「姉さん、侑李、お茶買って来た……あ、冬奈。来てたんだな」


「ええ、おかえり」


「ただいま」


 私と軽く会話した後、翔梨は私の隣に座っている真子さんにジト目を向けた。


「姉さん、冬奈の隣は俺のだから避けてくれない?」


「嫌です。冬奈ちゃんは今日だけ私の物なので」


「……今日だけだぞ」


 私の隣に座ろうとしてくれていた翔梨に無意識に頬が緩む。


 翔梨はしょうがないというようにため息をつき、侑李の隣へ座る。翔梨の脇腹をつつきながら僕の隣は嫌なんですか」と言った侑李に翔梨は「い、いや、そうじゃなくてさ」と目を逸らしながら言っていた。


 そんな2人を見て微笑ましくなる。まさに普通の兄弟と言えるだろう。


「仲が良いんですね、翔梨と侑李は」


「ん? 嫉妬?」


「流石に男性に嫉妬は……」


 そこで私は言葉を止めてしまった。……するかもしれない。断言出来ないかも。


「と、取り敢えずそうじゃなくて。おつかいとかも嫌な顔をせずに行ったと思うので」


「そうだね〜。私から見ても結構仲良いと思う。家族の仲が良いのはいいこと」


 そこで侑李の脇腹つつき攻撃をやめさせた翔梨は私達の方に視線をむけてきた。


「そういえば冬奈。会社の事について言いたいことがある。姉さんに関する事でもあるけど」


 





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透華の光 進 kino8630 @kino8630

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