二十六 ルルは奧さん

「ルル。シッコしたい。今日はトイレへいってみる。

 外科の先生が、リハビリだけでなく、松葉杖で歩いた方がいいと言ってた。

 トイレまで、支えてくれないか?」

「うん、いいよ」

 ルルはスケッチブックをベッドの俺の足元に置いた。俺もスケッチブックをベッドにおいて、ルルがいる側に身体を動かして両脚をフロアに降ろした。


 両脚ともまだギブスがされたままだ。

 当初、両脚とも下腿と上腿を骨折していたため、ギブスは脚全体をおおい、ギブスを貫通した固定具で骨折部位を貫通固定していたが、骨折箇所の快復が予定より一ヶ月以上早かったため、骨の固定具の無い脚全体のギブスに変っている。

 担当医は、リハビリだけでなく、自発的に脚を動かすことを勧めていた。


 俺は松葉杖と、膝が伸びたままのギブスで固められた脚を使い、松葉杖、両脚、松葉杖、両脚の足どりで病室のトイレへ歩いた。

 背後にルルがいる。


 トイレに入った。ドアは開いたままだ。松葉杖を両脇にはさんだまま、パジャマのズボンの股間に手を伸ばした。脇の下に松葉杖があるので腕が伸びない。松葉杖をはずしたら、バランスを無くして倒れそうだ。

 ルルにそのことを話して背中を支えてもらい、ふたたび股間に手を伸ばしたら、ルルが後ろから俺を抱きしめて、パジャマのズボンの股間に手を入れた・・・。

「おっ?!」

 オレは驚いた。ルルは俺の股間に触ったことはないはずだ。


「こうしないとおシッコできないでしょう?心配しなくていいよ。アキラが眠ってるとき。身体を拭いたよ。だから、全部わかってる。はい、おシッコしてね・・・」

 ルルの手が触れている。じょろじよろと放尿したが出が悪い。当然だ。股間が大きくなっている。ルルの手が優しすぎる。

「こまったね・・・」

 そう言っていたルルが、往復ビンタするように大きくなったものを軽く平手打ちした。すると大きくなったものは一瞬にしおれ、放尿がはじまった・・・。

 しばらく排出したから、そろそろ終りに・・・・ならないぞ?シッコが止まらない・・・。


 ルルが俺の耳元で言う。

「横になってると、溜まるんだよ。看護師さんに聞いたの。おっきくなったときはどうすればいいか・・・。だから、あわてなくていいよ・・・」

「でも・・・」

 ルルの息が耳にあたり、くすぐったい。

「だいじょうぶ。あたしはアキラの奧さんだから、介護するのが当り前だよ」

「うん・・・」

 ルルは奧さんなのだから、言うことはわかる。


「ほら、納得したから終ったよ。

 ギブスがサポーターに代るまで、独りでおシッコは無理だよ。

 したくなったら、あたしに話してね」

「わかりました」

「よろしい。ちゃんと言うことを聞くんだよ」

 そう言ってルルがオレの頭を撫でている。

「うん」

 母が一人増えた気がする。

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