十七 二度目の目覚め

「アッキ・・・、アキラ。あたし市立は受けないよ。

 共通試験の結果だけで合格するから、国立にしぼるよ。

 志望科はアキラと同じにしてあるから、がんばるね・・・」

 俺は遠くにルルの声を聞いていた。今日は何日なのだろう・・・。


「今日は三日だよ。市立の試験日だよ。

 あたし、ずっとここにいるよ。だから、安心して眠ってね・・・・」

 こんなとこで、ルルはしっかり眠れるのか?家のベッドじゃないと眠れないだろう?それに、試験勉強もできないぞ・・・。


「ここは個室だよ。

 アキラは寝返り打てないから見えないけど、付添用のベッドもシャワーも机もあるよ。

つらいね。ギブスの中で痒いとこ、ある?」

 ルルが俺を見ている。声を出していないのに、どうやって話しているのだろう。俺の気持ちがわかるのか・・・。

「あたしがいつもそばに居れるように、がんばるね・・・」

 ルルが志望校を俺と同じ大学にしぼったのは、俺を介護するためだ・・・。

 俺の症状はそれほど酷いのか・・・。

「時間はかかるけど、骨折だけだから、後遺症はないって話してたよ。

 だからね。アレも、だいじょうぶって言ってた」

 ルルが顔を赤くした。女だって性欲はあると言いたいらしい。

 俺は、ルルの気持ちを知って胸が熱くなった。



 目が覚めた。

「・・・ルル、ごめんな。心配かけて・・・」

「目が覚めたね。アッキ・・・。

 アキラ。あたしより先にくたばるんじゃないよ。寝てるだけだとヒマでしょ。

 さあ、ここを教えてね!」

 ルルの話し方がきつくなった。物理の遠心力の計算方法を訊いてきた。


「ここは、回転半径rと、角速度ω、回転と速度vが必要だよ・・・」

 俺は沈痛剤を点滴しているが、それでも、骨折箇所が痛い。けっこう激しい鈍痛だ。

 ルルはそのことがわかっているから、俺が今できることをさせて、俺の意識を痛みから遠ざけようとしている。鎮痛剤が効いた状態で考えるのだから、かなりきつい。頭脳明晰とはゆかない。

 そんな事を考えたら睡魔に襲われた。眠い。どうしようもなく眠い。遠くでルルが何か言ってるが、何を言ってるかわからない・・・。

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