十六 目覚め

「アキラはなんで気づかないんですか?今日で三日目ですよ」

 ルルは担当の医師をにらみつけた。アッキは顔、頸椎の一部、肩関節、鎖骨と肋骨、太腿と腰を骨折していたが、脳に損傷はないらしい。

 しかし、アッキは眠ったままだ。何かがおかしい。この病院はヤブではないのか・・・。

「事故当初、腫れていた脳は正常にもどりました。眠らせていましたがもう目覚めていいはずです。いつ意識がもどるか、確実なことは言えません」

「植物状態なんですか?」

 明の両親とルルの両親が医師の答えを待った。両親たちに医師への不信感が現れている。

 日頃穏やかな明の父も、今にも医師に襲いかかりそうだ。それをルルの父が止めている。


「いえ、そんなことはありません。脳は正常に機能してます。

 骨折しているから、安静が必要です・・・」

 医師はアッキの右大腿骨と右の腰を示している。

 そんな事を訊いてるんじゃない。そうつぶやいて舌打ちする音が明の父から聞える。

 ルルはそう思って改めて明の父を見た。父に、医師に襲いかかりそうな態度も、何かつぶやいている様子もなかった。ルルが聞いたのは明の父の心の声だった気がした。アッキ・・・、早く気づいてね・・・。


「ルル・・・」

 俺は目をあけた。ルルの顔が見えない。さっきまでルルは俺を見ていた。背景の青も無い。消えてる。あるの白い景色だ。と思ったら、ルルが俺を見おろした。

「アアッ!アッキッ!」

 ルルが俺に抱きついた。

「ウオオッ・・・・」

 あまりの激痛に大声を上げたが声にならない。


「アアッ!ゴメンね!」

 ルルがまた抱きついた。

「ウオオッ・・・。なんで、そんなことを・・・」

「ゴメンね!ゴメンね!」

 こんどは胸のギブスをゆすっている。


 なんてことするんだっ!痛いぞ!声が出ない・・・。

「いたい・・・、触らないで・・・」

「ゴメンね。ゴメンね・・・」

 そう言いながらルルは俺に触れている。触られるだけで身体のあちこちが痛む。

「痛いから触らないで。身体に触れるだけで痛いんだ・・・。

 俺、何があったの?どれくらい寝てた?今日は何日?」

 そう言っているあいだに、看護師が点滴を交換して点滴速度を調整している。


「今日は三月一日。三日間寝てた。車に撥ねられたの・・・。

 あたしをかばって怪我したの」

「ルルは怪我しなかったか?」

「あたしは何ともないよ。アッキに助けられた。アッキ、試験受けられなかったね・・・」


「何だ?市立が三月三日、国立が九日だ。まだだいじょうぶだ。しっかり受けてくるんだぞ・・・」

 俺は変なことを言っている気がした。

「うん!しっかり受けるね!

 国立・・・。合格すれば、ずっといっしょにだね!」

 ルルはなにを言ってる?同じ大学にいても、学年が・・・。

 ああっ、アアアッ、期末試験、受けてないぞ・・・。

 俺、まだ、一年のままだ・・・・。


「うん、あたしがアッキを介護して、大学へ行くようにするね・・・」

 俺の胸に雫が落ちた。胸にギブスが巻いてある。ルルの目から涙が頬を伝ってる。このギブスは何だ?

「鎖骨と肋骨も折れてるの・・・」

「他に折れてるのはどこ?・・・」

 さっきまでの痛みがなくなってきた。なんだか身体が軽い・・・。

「右の腰骨と太腿の骨・・・。痛み止めを点滴してる・・・」

 聞えたのはそこまでだった。

 いつのまにか俺は眠っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る