十四 卒業式の練習

 午前十時。

 卒業式の練習と言っても、大したことはない。体育館手前の講堂に集った三年生に、学年主任が卒業式のスケジュールを説明し、実際の練習になった。


 講堂から三年生が体育館に入場して体育館前部の椅子に着席した。

 卒業式の司会は教頭だ。


 開会の辞。教頭の指示で卒業式が開始。

 全員が起立。そして国歌斉唱、校歌斉唱。そして、着席。

 校長あいさつ。

 卒業証書授与。学年代表がステージに上がって校長から卒業証書を受けとる。

 驚いたことに、代表はルルだった。俺はまったくそんな事を知らなかった。

 代表がステージから下りると卒業証書授与は終る。


 校長が祝辞を述べて引っ込む。そして、来賓あいさつ。

 俺は、元担任のはからいで来賓席に座っていた。

 教頭が笑いをこらえて、

「OBより祝辞をいただきます。中野明さん。ステージ壇上へどうぞ」

 なんて言うものだから、俺は壇上に上がって、卒業の祝辞を述べるはめになってしまった。

 俺が壇上に上がると三年生は大笑いだ。

 皆、俺の出演を教職員が演出したと思っていた。


 その後、閉会の辞を教頭が述べて卒業式は終了。

 校歌のメロディーが流れる体育館を卒業生が退出。

 集合から解散まで所要時間は三十分程度だ。



 午前十一時すぎ。高校を出た。

「OB祝辞、ごくろうさま。よかったよ。アッキにあんな特技があったんだね・・・。

 アッキ、どうしたの?」

 俺は高校三年間を思いだしていた。ルルは俺の腕を取って歩きながら、俺の顔をのぞきこんでいる。

 横断歩道の手前で立ち止った。

「俺は、高校の時に感じてたことをそのまま話しただけだよ。

 ほんとは、ルルとのことを話したかった。

 高校の想い出は、ルルとの事と将来の事だからね」

 俺が大学で化学工学系を専攻したのは、仏壇店の家業を考えてのことだった。家業そのものより、ルルとともに暮すために仏壇店をどうするかを考えて、仏具で使われる漆について知りたかった。


 横断歩道の信号が青になった。その時、足元の縞柄に気づいた。気になっていたのこれだ!アスファルトの縞柄。横断歩道だ・・・。

 そう思った瞬間、視界の右隅に車のフロントが現れた。

 よける余裕はない!瞬時に俺はルルを抱きしめ、ルルの頭を保護した。この腕は解くわけにはゆかない!一瞬に視界が飛んで歪み、身体が浮いた。その後から激痛が・・・。

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