十三 二月二十五日・白と黒
「どうしたの?到着よ。さあ立ってね・・・」
記憶を探っている俺の手をルルが引っぱった。記憶に現れた白と黒の縞模様は強い光を見たあとの残像のように、視界の片隅に残ったままだ。
電車から下りてホームを歩く。
「ルル。白と黒の縞模様で何か憶えていることはないか?」
「うーんとね。コットンのサマーセーターかな、白と黒のボーダーの。
去年の夏、寒い日に、アッキが買ってくれたでしょ」
ルルは俺を見つめてほほえんでいる。
「そんなこと・・・。ああ、突然、雷雨になって、そのあと、急に冷えたときだね。確か、大粒の雹が降って・・・。あのセーター、今、どうなってる?」
ホームから階段を登りて通路を改札口へ歩いた。ルルは俺の手を握ったままだ。
「アッキが買ってくれたセーターだから、大切にしまってあるよ。
サマーセーターだから、夏に着るよ」
ルルは俺を見てまたほほえんだ。
俺の記憶に現れた白と黒の縞柄はセーターとはちがってもっと硬い印象だ。
改札口を通って駅を出た。市道を高校へ歩く。
「セーターより硬い白黒の縞柄を知ってるか?」
「シマウマ?」
「ウーン、もっと堅い物かな。
記憶に現れるんだけど、何かわからない。重要な気がするんだ」
「何だろうね?そのうち思いだすよ・・・」
高校が近づいた。高校へ行く生徒たちがルルとを俺を見ても、何も気にせずにいる。
これまでの一年間、高校の前までルルといっしょに歩いてきて、ここでルルは高校へ、俺はこの先にある大学へ通った。今日は高校内までルルとともに行く。母校ながら、なんだか緊張する。この緊張はなんだろう・・・。
「いつもはここでお別れなのに、今日はいっしょだね。
みんな見てるけど、アッキがいっしょに来ること、学校に連絡してあるから、あたしは気にしないよ!」
ルルは握っている手を放して俺の腕を抱きしめ、そのまま校門を抜けた。周囲の視線がルルと俺に注がれると思いきや、見ている者はいなかった。
思いかえせば、ここ一年間は今日みたいにルルとともに通学したし、それ以前は通学時だけでなく、高校内でも時間が許すかぎりルルといっしょにいた。周囲はルルと俺を二人ではなく、一組と見ていたのは確かだった。
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