八 三世帯

「じゃあルル、しっかり勉強してね。明、しっかり教えなさいよ。

 ルル、入試が終ったら、皆でご飯食べようね」

「うん、母さん、行ってくるね」

 母とルルの会話はどう見ても親子だ。

「店を開けるから、そこまで送るわ。父さんの顔を見てらっしゃい」

「わかった」

 ルルの返事を聞いて母が炬燵から立って店へ出ていった。父は奥の作業場にいるらしい。ルルと俺は店に出て、奥の作業場へ通路を進んだ。


 作業場で仏壇の修繕をする父にルルが言う。

「父さん。おはよう。明の教科書、取りに来た。入試が終ったらまた来る。その時はゆっくりできるよ」

「ああ、がんばってくれ。明、しっかり教えろ。ルル、またな」

 父はそう言って笑顔でルルを見ている。こんな朗らかな父を見たことがなかった。


「母さんや父さんはルルと仲が良かったのか?」

 店にもどった俺は母に訊いた。

「今さら、何言うの?」

 母は驚いたように俺を見ている。

「母さん。アキラは、昨日、頭を打ったって話してた。記憶が飛んでるって言ってたよ」

ルルがかいつまんで昨日の俺を説明している。頭を打ったのはボンヤリ記憶しているが、何処でどうして頭を打ったか憶えがない。


「わかったわ・・・。

 明。中学の時から、ふたりして私と父さんに頼んだでしょう。将来、ルルといっしょになるから、そのつもりでいてくれって。だから、あたしたちとルルの親たちが話しあって、二十歳まであなたたちの決意が変らなかったら、中野家と瀬川家は同居しようと決めたのよ。

 結婚したルルの姉は承知した。あなたの兄、隆はこっちにもどる気がないから、納得した。

 明。あなた、ルルと結婚する意思は変ってないわね?」

 母とルルは笑顔でを俺を見ている。


「変ってないよ。同居するってどこに住むの?」

 思いだした。俺はルルの笑顔と屈託ない性格が大好きだ。いっしょに居るとなんでもできる。ルルを見守ってきた俺は、ルルに見守られていろいろしてきた気がする

「上を改装してる。三家族で住めるように」

 母が店の上を指さした。二階三階は倉庫になっている。

「ルルと俺もここに住むの?」

「明。あなたの提案よ。すぐに住まなくたって、いずれは住むと話したわ。ねえ、ルル」

「そうだよ、アッキ。アッキが考えたんだよ。あたしたちが他所に住んだら、親たちは寂しくなるし、ここに同居したら、ママとパパが寂しくなるから、いっそのこと皆でいっしょに住もうって。防音して音が漏れないようにしてって。

 アアッ、あたしたちまだですよ。未経験!」

 ルルが顔を赤くしている。ルルは新婚夫婦の夜の営みを連想しているらしい。まだ、そういう経験は無いのに。


「入試が終ったら、ふたりで相談しなさいね。ふたりでする最初の大事な事よ。たがいの思いやりが大切なの。いつまでも互いを思ってあげなさいね」

「母さんたちも、そうだったのか?」

「ええ、そうよ。歳をとっても仲のよい夫婦はそういうものよ。

 そしたら、帰って勉強しなさいね。

 ルル、パパとママによろしくね。私たちが付いていると話してね」

「はい。ふたりとも喜びます。感謝してる。母さん」

 ルルは母を抱きしめてから俺の手を握り、母に見送られて店を出た。

 俺は母が話した、私たちも付いている、という言葉が気になった。

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