七 ルルと母

 入浴後、居間で雑談して十二時すぎに布団に入った。ベッドのルルと話したはずなのに気づいたら朝八時。ベッドにルルはいなかった。布団を片づけて着換え、二階の洗面所で顔を洗っていると、

「ご飯だよ。パパとママはすませたから、あたしとアッキだけだよ」

 後ろからルルに抱きつかれた。

「昨夜、俺、何時に寝た?」

 顔をタオルで拭きながら、ふりむいた。

「一時近くかな。アッキ、うなされてたよ。怖い夢でも見たの?」

「いや、何も見てない。見たとしても憶えてない。

 さて、ご飯にしよう。ご飯を食べたら、俺の家まで行って教科書を取ってくる」

「あたしも行くね。お母さんにあいさつしてくる。

 ママが電話してたけど、あたしがあいさつしなければいけないから・・・」

「うん・・・」

 俺はルルを抱きしめた。

 ルルはこんなに常識的な性格だったか?もっと楽天的だった気がする。それに俺たちが小学校の時から、ルルの両親と俺の両親は親しかった気がする。


「どうしたの?あたしがお母さんにあいさつしてら、いけない?」

「そんなことないよ。いっしょに行こう。その前にご飯にしよう」

 俺は腕を解いてルルの手を握った。

「わかった」

 ルルといっしょに階下へ下りた。


 朝食をすませて外へ出た。吐く息が白い。気温が下がっている。ルルの手を引いてアーケード通りを駅の方向へ歩く。朝陽を浴び、雪が積った西の山陵の樹木の樹冠がうぶ毛のように見える。幹は灰色が多い。ブナの原生林だろう・・・。

「木の枝がうすーい灰茶色に光ってて、山並がきれいだね!赤ちゃんの髪の毛みたい」

 ルルは歩みを止めて目を細め、山陵を見つめている。ルルの吐く息がまつげに結露して大きな黒い目が潤んでる。

「どうした?」

「空気が冷たくて涙が出てきた・・・」

「さあ、着いたぞ。中に入ろう」

 店のシャッターは下りている。通用口のドアを開錠してルルの手を引き、

「ただいま!ルルを連れてきたよ!」

 店に入った。

「寒かったでしょう。サッ、炬燵に入ってね!お茶をどうぞ。

 明。教科書、取りにきたのね。早く準備しなさいね」

「はいよ」

 ルルは居間の炬燵に入り、俺は二階の自室へ行った。教科書とノートをリュックに詰めて居間にもどった。

 ルルは母と笑いながら話している。俺に入試まで泊まり込みで家庭教師するよう、母に依頼しているようには見えない。そして、ルルと母は親子のようだ。こんなふたりを見た記憶が無い。いったいどうなっている・・・。

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