六 疑問
「市立大の入試は三月三日。国立が九日だったね」
炬燵の横に布団を敷く。
「入試に、アッキも来てね」
ルルがシーツを引っぱってシーツの端を布団の下に巻きこんでいる。布団の足元は炬燵に入っている。
「ああ、行くよ。弁当を持って」
「安心した!いないと不安だよ」
何か妙だ。高校入試の時は独りで受験して何も不安な様子を見せなかったルルだ。自分でできることは誰も当てにせず、自分で行ってきた。俺を頼る性格じゃない。もっとしっかりした性格だった気がする。
「アッキが入試につきそってくれるから安心だよ」
ルルが毛布をシーツの上に拡げ、その上に布団を置いている。
大学入試のつきそいに家族が行くなんて妙だ。受験生はみな一人で行動できる年齢だ。受験生が自立しないようにしているのは受験生当人か?それとも家族か?いや、社会だな・・・。
そう思いながら布団を敷き終え、ルルといっしょに階下へ下りた。
居間の炬燵で遅い夕食をすませ、入浴するルルを送りだしてのんびりしていた。ルルのパパは就寝しているらしく、炬燵にいるのはルルのママだ。
「ルルはどうなの?」
「どうというのは、何についてですか?」
俺は、マグカップを手に取った。コーヒーが入っている。俺が就寝前にコーヒーを飲んでも眠れることをルルのママは知っている。このことを知っているのは俺の親くらいだ。ルルのママは俺の母と何を話したのだろう?
「もちろん、合格するかってことよ。でもね、心配してないわ。共通試験の結果がよかったから、あれだけで市立はパスするはず。だから、国立がどうなのかなって思って」
ルルのママはそう言うが合否を気にしてるように見えない。
「正直に言って合否の境目ですね。結果を気にせず、がんばるしかないですね」
「そうなの」
「ママは何を気にしてるんですか?合否の他に、何かあるんですか?」
何かあるはずだ。そうでなければルルの部屋に俺を泊めない。ママが気にしているのは、ルルの両親と俺の両親が、ルルと俺がいっしょになることを認めた理由か?
浴室のドアが開く音がした。
「ルルがお風呂からあがるわ。お風呂に入ってね。あなた、分別があるわね」
「わかってます」
「ルルのココア、いれてくるわね。あなたもどう?コーヒーがいい?」
「ココアを」
ルルのママは炬燵から立った。
「何、話してた?」
ルルが入浴からもどった。俺のそばに座って髪を拭いてる。自動床暖房がきいて暖かい。
「初夜は、受験がすんでからにろって」
「そんなことか。とっくにすませたって言ったのに、信じてないんだ・・・」
ルルは俺のマグカップを取った。飲みかけのコーヒーを飲んでいる。
「うそを話したのか?」
「うそは話してないよ。あれをしなくっても、初めての夜は初夜だよ。
二人でいっしょになろうって決めたから、アッキの言うとおり試験が終るまでがんばるよ」
「うん、がんばろうな」
俺は炬燵から立った。屈んでルルの頬に手を当て引きよせ、唇を重ねた。
「風呂に入ってくる。ココア、後で飲むと話しといて。冷えたのを飲みたい」
「うん・・・」
ルルが俺の手を握った。俺も手を握りかえした。
居間から廊下を浴室へ歩いた。脱衣所に入ろうとしたとき、居間からルルとママの声がする。
「せっかくココアをいれたのに・・・」
「アッキは猫舌なの。ママも憶えてね。忘れてもいいから、何度も憶えてね・・・」
妙な会話だ。ルルは何を話そうとしてるんだろう・・・。
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