四 二月二十五日はなんの日?

 記憶に現れたルルはまだ中学生だ。そして俺は高校生。どういうきっかけだったかわからないが、高校受験を控えたルルの勉強を俺が教えることになった。そして、ルルは俺と同じ高校に入った。同じ電車で通学し、ほとんど毎日のようにたがいの家を行き来し、兄妹のように勉強した。


 あの時とちがうのは、童顔のルルがすっかり女らしくなって優しくなった事だろうか・・・。

「さあ、勉強しよう」

「うん・・・」

 俺は抱きしめていた腕を解いてルルを座らせた。ルルは目を伏せて炬燵の上にあるノートを見ている。ルルは抱きしめられたまま勉強したいらしかったがそうはゆかない。抱きしめていれば血液は脳とは別な所へ流れ、思考があいまいになってしまう。


「教えてほしいことがあるんだ・・・」

「なあに?」

 ルルの大きな黒い瞳がじっと俺を見ている。

「二月二五日はなんの日?何がある?」

「卒業式の予行練習。十時に学校に集合。十二時に解散。デイトする?」

「今まで、デイトしたことあった?」

「いつもここにいるか、アッキの部屋にいたよ。あたし、外へ出るのはキライだよ。オタクなんだね・・・。」

 そうだった。ルルは外出が嫌いだ。その原因を俺は知っている。


「二十五日はいっしょにルルの学校へ行く。俺は卒業生だし未来の夫として高校を見に行く。いいだろう?」

「ほんと?」

 ルルが目を見開いた。瞳が輝いたような気がした。 

「ほんとだ。家族なら見学していいだろう?」

「アッキはあたしのお兄ちゃんだし、未来の夫だから、だいじょうぶと思う。

 明日から卒業式まで自宅学習日だから、明日、電話してみるね」

「お兄ちゃんって、どういうこと?」

「あのね・・・」

 高校一年の時から、ルルは俺の妹だと思われていたとルルは言う。


 ルルが高校に入ったときから周囲は皆、ルルと俺を兄妹と思っていた。苗字はちがうし顔立ちもちがう。似ているの雰囲気と性格だ。高校での時間をルルと親しく過す俺は、それだけでルルの兄と思われ、苗字がちがっているのはどちらかが養子に行った事になっていた。人の認識なんてあてにならない。

 ルルは俺と同じくらいの身長だ。肩幅が小さく胸も小さく、腰がくびれて、尻がちょっと大きい。その体躯にルルの童顔がある。アンバランスだ。顔だけでもめだつのに、ルルの身長と体型はさらにルルの存在を際立たせていた。

 ルルが外出嫌いになった原因のひとつがルルの容姿にあったが、俺の存在が、ルルに及ぶよけいなうわさをはね除けていた。


 説明を終えてルルは俺の手を握った。

「まわりがうるさかったけど、いつもアッキがそばにいたし、お嫁さんにすると言ってたから、安心してたよ」

 ルルの説明を聞いてもはっきりした記憶が無い。説明されるとそんな気がしてくる。


「ねえ、アッキの期末試験は終ったの?」

「今月末だ・・・」

 そう言われれば、期末試験は二十六日からだったと思う。準備はしてあったと思う。今さらあわてなくていい。

「そしたら、受験までいっしょに居てね。アッキのお母さんにも、そのつもりで泊めますって話したんだよ。いいでしょう。市立大は共通試験だけで通るから・・・・」


 大学の合否の問題じゃない・・・。

「もしかして、今まで泊ったことがあった?」

「うん。だから、ママは驚かなかったでしょう」

 なんてことだ。ルルは未成年だぞ。そう言う俺もまだ未成年だ・・・。

「何処に泊った?」

「下の客間・・・」

「そうか・・・」

 なぜか俺はほっと安心した。

「でもね。ママたちが寝てから、あたしたち、いっしょに寝たよ・・・」

 ルルの話に、俺はまったく記憶が無かった。

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