流れる騎士

釣ール

今日も今日とて何も使わない

 港区みなとくから見る海は個人的に今でも好きである。



 港区女子が現れてイメージがすっかり変わりつつある東京。



 彼女らは悪くない。

 あの人たちの戦術にぴったりな場所がたまたまこの港区になってしまっただけだ。



 屈新浪くしなは19歳男性。

 大学入学をあきらめ、移住いじゅうを目指すために仕事をしている。



 普段やっている仕事とは別で副業とも違うものがあった。



「うがっ」



 むなぐらをつかみ、空へと相手をあげる。



「な、なんでこんなマネを! 」



 秘密を守れば手荒てあらなことはしないと言ったのに。

 おかげで屈新浪くしなも武力を使わないといけなかった。



「俺が水使いであることを公言されては困るとなんども言ったはずだ。まあ俺が水のそばで竜を作ったところで誰も信じやしないからギリギリ拡散されなかったのはいいが」



 脳を今から洗う。

 洗脳せんのうじゃない。

 屈新浪くしなは相手の水分を利用し相手の脳を弱らせ都合の悪い記憶を消すことができる。



「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ」



 そんなグロい方法ではないんだがな。

 まあいいか。

 怖いよなあ。やられる方は。



 屈新浪くしなのもうひとつの仕事は能力を持つ人達を守るために記憶消去や護衛ごえい、そして能力をなるべく使わない戦いをまかされていた。



 誰かの幸せの裏ってのはいつも他の誰かが守っているもの。

 別にそれで幸せな人間を恨んでいるわけじゃない。

 おかげ屈新浪くしな物価高騰ぶっかこうとうの現代で食いっぱぐれがないのだから充分だ。



 移住前に住んでいる家のプールや水溜まりで屈新浪くしなは浮かんでいる。



 港区の海で何も考えず浮かんでいたいがサメにあったときにどこかかじられないよう防衛手段ぼうえいしゅだんを使ってしまったら人間としての生活が送れなくなるかもしれないと夢と現実を見るようになった。



 どこかにいないかな。

 どデカいことをかましてやるぜ!って言ってそうな05年生まれやその前後の仲間が。



 もう現実ばかりみて港区の海を楽しめないのもくたびれたアラサーを見ているみたいで嫌だから。



 馬鹿にしてるわけじゃない。

 ああはなりたくないだけ。



 葛藤が続く中、手のひらで水をあつめ玉をつくる。



 移住先でも能力者を守る仕事はまかされるかもしれないがはやく見つけたい。



 ふさわしい死に場所を。

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