第25話 スローライフ配信者。開花配信をするwithもふもふ

 俺はゆっくりとスマホをタップして、投稿に付けられた反応を確認してみた。


 ここまで通知が多いとどんな反応がついているのか、緊張してしまう。変に炎上とかしていないだろうか。


『きちゃあああああ!』

『マナナッツ開花待ってた!』

『ここまで育てたのはすごい!』

『育成成功例として貴重なデータになりそう』

『花かわいいいいい』

『マナナッツって育てられるんだ!?』

『開花した花もかわいいけど、チラって写ってる羊もかわいい』

『この羊出たの初めてだよね?』


 コメントの大体は好意的なものであり、みんなマナナッツの開花を喜んでくれているようで良かった。


 この喜びを全世界の誰かと共有できる。これがSNS時代。これで俺の名前も結構知れ渡ってくれるだろうか。


 チャンネル登録者も増えて再生数も増えれば、もっと稼げて生活が楽になれる。そんな現金な考えが頭によぎる。


 だって仕方ない。俺は定職に就いていないのだから。収入を増やせる見込みがあればそれに飛びつくのが人間というものだ。


 これはこの調子でライブ配信の予告をするべきだと俺は思った。


『みな様反応ありがとうございます。今夜20:00頃にライブ配信で開花したマナナッツを動画で映しますのでよろしくお願いします』


 よし、送信……!


『ありがとうございます』

『絶対配信見に行きます!』


 おお、早速コメントがついた。なんにせよ、また俺のチャンネルの人気が上がったようでなによりだ。


 まあ、ライブ配信までに依頼された動画編集の方も終わらせないとな。


 きちんと依頼された仕事を終わらせてからライブ配信をしないとどうも気持ちが悪いからな。こういうのを後回しにするとロクなことにならない。


 せめて、キリがいいところまでは片づけないと。がんばろうか。


 俺はレンジからチャーハンを取り出して、それをモグモグと食べる。うまい。この焦がしニンニクバターの風味。癖になる。


 体から力が沸いてくるというか、活力が沸いてくる? これがニンニクパワーのお陰か? なんにせよ、これで午後からの仕事もがんばれそうだ。


 食事を終えた俺はまた編集作業を続ける。ダンジョン配信の切り抜き動画の作成。


 俺もダンジョン配信者をやっていたからこそ、ここが見所だとか、すごいポイントだというところを抑えられて、そこをピックアップすることができる。


 まあ、経験が活きたと言えば活きてはいるな。ダンジョン配信の経験があるからこそ、引っ張ってこれたかもしれない仕事だ。まあ、相手方の採用基準は知らんけれども。


 このまま一気に作業を開始する。切り抜いて、字幕つけたり、適切な効果音をつけたりして盛り上げる。見所の中の見所。特にメインとなる部分にそういう強調をするのも忘れてはいけない。


 こうして、俺は切り抜き動画を作った。依頼されている動画時間内にも収めることができた。上出来だ。後はこれを寝かして確認した後に先方に提出すればヨシ!


 現在の時刻は19:20か。20:00に枠を取っている配信に間に合わせようとすると。うーん。流石にスーパーに買い出しに行って帰ってくる時間はないか。飯は配信が終わってから食うか。


 というわけで、俺はマナナッツの鉢を自室へと運んだ。これでいつでもマナナッツを映せる状態にする。白丸もデスクの上で見守ってくれているし、準備万全だ。


 20時になったので俺は配信を開始した。さあ、マナナッツのお披露目ライブの始まりだ。


「こんばんはー。レンです。よろしくお願いします」


:きちゃああ!

:こんばんは!

:今日はマナちゃんの開花が見られると聞いてやってきました \1,500

:開花写真見たよー!

:初見です。よろしくお願いします


 挨拶をすると早速多くのコメントがついた。今まで見たことがない名前の人もいて、マナナッツの開花写真から新規のリスナーさんが来てくれたのは嬉しいことである。


「はい、初見の方も、いつも見てくれている方もありがとうございます。今日はSNSで画像を上げた通り、マナナッツが開花致しましたので、それのご報告をさせていただきます」


:やったー!

:うれしい!

:種の時から見てました。開花までするとは思わなくて正直驚いています


「ねー。開花するとは思いませんでしたよね。育てている俺もびっくりしましたよ」


 とりあえず、適当に雑談をしながら場を繋ぐ。すぐにマナナッツの開花したものを見せてももったいないし。


 でも、あんまりじらしすぎてもリスナーが飽きてしまうから、そこは程ほどのところを探らないとな。


:そういえば、マナナッツと一緒に写っていた羊はなんなの?

:白くて丸っこくて可愛かった


「あ、羊ですね。あの羊のぬいぐるみはですね。先日、ホームセンターに行ってお迎えしたんですよ」


:ホムセン君はなんでもあるからね

:いいなー。ぬいぐるみ欲しい


「先にこの羊を見ますか? ほら、おいでー。白丸ー」


 俺はカメラに白丸を映す。俺の手に抱えられてる白丸はつぶらな瞳で配信画面を見ていた。


:かわいい

:いいセンスしている

:もふりてえ!

:白丸って言うんだ


「ふふふ。実際にこの白丸はかなりのもふもふでね。寂しい夜もこの白丸をもふもふすれば癒されて、明日もがんばろうって気にしてくれるすごいやつなんですよ」


 まあ、迎えてから2日目であるからそんな機会は今のところないけれど、多分そうだろうと思って話を盛ってみる。


:白丸もふりたい \2,000

:白丸かわええ


 マナナッツの配信なのに白丸にも注目が集まっている。このままでは主役を食ってしまいそうな勢いだな。


 そろそろマナナッツの映像を解禁するか。


「白丸はウチのデスクの上にいますね。パソコンで作業をしている時も見守ってくれて癒してくれる存在です」


:わかる。仕事中にぬいぐるみが近くにあるとテンションあがるよね:

:いいなー。私も職場にぬいぐるみ持っていこうかな


「さて、白丸はちょっと脇にどいてもらいまして」


:白丸ぅううううう!

:画面の端っこに追いやられたwww

:そろそろマナナッツ来る?

:マナちゃん見せい


「そろそろ開花したマナナッツをお見せしましょう。どうぞー」


 俺はカメラの位置を動かしてマナナッツのところへと持っていった。そして、マナナッツの開花したところを見せた。


:おおおお! 本当に開花している!

:すごい! これ本物だよね?

:世界初! マナナッツの開花に成功!

:開花記念 \5,000


「はい、こちらマナナッツの花ですね。見た目も結構かわいけれど、実は香りも結構良い感じなんですよね。ちょっと甘いようなフルーティな感じがします」


:へー。もしかしたら香水の材料になったり?

:実以外も実は役に立ったりするのかな?

:アロマに使えそう


「まあ、俺はそういう香りとかに疎いもので、実際に香水とかに使えるかはわかりませんが……もし、そうなったら結構激アツですね」


:正直、実だけだったらわざわざ栽培する必要ないし

:ダンジョンのそこら中に落ちているし

:マナナッツを発見しました。即ポリじゃーが基本だもんね


 マナナッツの即ポリ。俺もやったことがある。最早、腹をすかせたダンジョン配信者の中ではおなじみの行為である。


 というか、その辺歩いてもマナナッツ拾えるから食料品の持ち込みとかも本当に最低限で良いんだよな。このマナナッツにどれだけの配信者が助けられていることか。


「とまあ、今日はマナナッツのお披露目でした。こっちのつぼみの方を見ますか? こっちは、まだツボミになったばかりの赤ちゃんで、こっちは開花しかけ。いっぱい花をつけてくれて嬉しいですね」


:この子たちも成長しそうで胸が熱くなる

:みんな無事に開花してね


 その後は適当に雑談をして配信を締めた。最後に来てくれたみんなにお礼を、投げ銭をしてくれた人に感謝を言葉を伝えた。かつてない高評価と投げ銭の合計額、更に同接数など色々な個人的記録を更新してくれた。


 ありがとうマナナッツ。そして、白丸。

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売れないダンジョン配信者が引退してスローライフを配信したらプチバズった 下垣 @vasita

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