第24話 ダンジョン産の植物。開花する

 目を開けた。俺の目の前には白色の丸まった物体。なんだこれ……


 段々と目が覚めてきて頭が働くようになってくると、俺は思い出した。そうだ。この白い丸っこい羊のぬいぐるみは俺がホームセンターで買ったぬいぐるみだ。


「おはよう。白丸」


 俺は白丸に挨拶をした。そういえば、昨日はぬいぐるみを初めてお出迎えしたということで、試しに一緒に寝てみたんだった。


 まあ、別に寝つきに変化があったわけでもないし、このもふもふがないとどうしても寂しく眠れないというわけでもない。


 明日からは別に普通に1人で寝るか。そう思って、白丸を机の上にポンと乗せた。


「お前の定位置はここだ。俺がパソコン作業する時は一緒だ」


 面倒な編集作業の時、ふと視線を変えると白丸がいるのは、中々に精神的な健康に良い。かわいいぬいぐるみを見るとそれだけで癒される。仕事の効率もあがるというものだ。


 俺は白丸に別れを告げてリビングへと向かう。昨日はホームセンターで精神的にはしゃいでいてなんか疲れているような気がするので、簡単にトーストで済ますか。


 トースターで食パンを焼いている間に目玉焼きを焼く。ベーコンを敷くのも忘れてはいけない。


 食パンにベーコンエッグを乗せるという簡単レシピ。これだけでなぜか贅沢した気分になれるのはなぜだろうか。


 個人的には料理の中で最も満足感のコスパが良いと思っているものである。朝食全部これで良い説すら提唱する人が現れても良いレベルだと思う。


「えーと、ヨーグルト、ヨーグルト」


 俺は冷蔵庫の中身を見た。しかし、どこにもヨーグルトがない。


「あ、しまった切らしていたか」


 一人暮らしの家。誰かが食べたというわけではない。だとすると、朝食にヨーグルトがないのは100パーセント俺が悪い。


 昨日、ついでに食料品も買っておくべきだったか。なぜ、俺は昨日ぬいぐるみしか買わなかったのかと、昨日の自分の責めてしまう。


 仕方ない。今日は牛乳で済ますか。まあ、ヨーグルトの原材料も牛乳だし栄養素もそこまで大きくは変わらないだろう。善玉菌があるかないかの違いだ。


 というわけで、今日の朝食はトーストにベーコンエッグを乗せたものと牛乳で決まり。


 ベーコンの塩気と卵の黄身のトローリと溶けるこの感じがカリカリのパンに合わさって実にうまい。


 表面がカリカリと焼けつつも中はもっちりとしている食感のパンは実にたまらない。もういいとこどりをしているだろう。


 水分が少ないパンを食べて喉が渇いたら牛乳を飲み込む。これが丁度良い具合に喉を潤してくれてうまさを感じる。


 逆にヨーグルトでなくて牛乳で良かったかもしれないと思うくらいにはあうな! でも、それはそれとしてヨーグルトは食べたい!


 朝食を食べて気分がすっきり爽快。さて、今日も庭の様子を見てみよう。雑草とか生えてねえか!


 意気揚々と玄関を出て庭へと向かう。マナナッツの鉢を見ると、なんかいつもと様子が違う。


 開きかけたツボミっていうかこれ完全に……


「開いてね?」


 どうみてもピンク色のきれいな花を咲かせている。色合いがとてもきれいであり、観賞用の花として売られていても人気が出そうだと思うくらいに。


「……! マジかよ! 開花してんじゃねえか! いつの間にか!」


 朝っぱらだと言うのについ大きな声を出してしまった。近所迷惑かもしれないと少し反省をしてしまう。


「いや、でも、これ……スマホスマホ!」


 俺は急いで自室へと戻って昨夜から充電していたスマホを手に取る。すると、作業デスクの上にいる白丸がかまって欲しそうな目でこちらを見ていることに気づく。


「なんだ。お前も一緒に写るか?」


 俺はスマホ片手に白丸を抱えてドタドタと歩き、マナナッツの元へと向かった。


「よーし、白丸。挨拶しろ。これがマナナッツだ」


「…………」


 ぬいぐるみだから挨拶をするわけがない。


 そんなファンタジーな妄想をしている暇はない。今はマナナッツを白丸の撮影をするんだ。


「えーと……。ここの軒先に白丸を置いてっと。マナナッツもここに配置。こんなもんで良いか? 角度と距離はここで……」


 マナナッツの花が映えるような位置を調整しながら画角を調整する。人気インフルエンサーになるためにはここも手を抜くことはできないだろう。


「ここだ!」


 俺はシャッターを押した。マナナッツの花と白丸が良い感じに写った。これにて撮影完了。後はこれをSNSに上げるだけだ。


「いや、待てよ。朝っぱらかアップして良いものなのか?」


 俺は今一度SNSの使い方について考えてみることをした。こういうのって、重要なお知らせがありますとか、嬉しい告知がありますみたいに引っ張って期待値を上げておいた方が投稿が伸びるんじゃないかと。


 色々な配信者がやっている。企業だってやっている。俺もやってやろう。


 それに、今の時間帯的にSNSをやっているのはよほどの暇人くらいだろう。どちらかと言うと人が多い時間帯を狙って写真をあげるか。そうだな。あんまり焦らしすぎてもアレだし、昼頃にするか。


 スマホ依存症の現代人たちは昼休みにSNSのチェックくらいするだろう。


『今日の12時にとある写真をアップします。お楽しみに』


 まあ、これくらいでいいだろう。こういう小手先のテクニックを使って俺はこのSNS戦国時代を生き抜いてやる。


『なになに? なんの写真?』

『まさか、マナナッツ?』

『ついに結実か!?』

『開花が先だろ。常識的に考えて』


 開花の予想は既にされているか。まあ、いいだろう。そういう匂わせもしたつもりだ。後、4時間以上、もやもやとした気分で過ごすと良い。


「まあ、予約投降くらいしておくか」


 俺は12時きっちりにマナナッツの開花写真をアップするように設定した。さあ、多いに盛り上がると良い。


 俺は含み笑いをしながら、昼まで編集作業をすることにした。なんやかんやでありがたいことに動画編集の依頼も結構溜まっているのである。


 また、自分のライブ配信の切り抜きも余裕があったらやってみたい。どこを切り抜いていいのかはわからないけど、まあ自分の配信だから自分の見所くらいはわかるだろう。


 そして、編集作業を開始すること数時間くらい。集中して作業していたから全然時計を見ていなかった。


「うげ。もう12時すぎてんじゃねえか。通りで妙に腹が減るわけだ」


 なにをしてもしなくても、腹は減るものである。腹が減りすぎて今は調理する気力がない。かと言って近くにコンビニも飲食店もないので買いに行ったり外食もできない。


 こういう時、都会だったらすぐに飯を確保できるのにと思ってしまう。


「まあ、冷食でいいか」


 俺は一人暮らしの救世主である冷凍食品を使うことにした。レンジにかけるだけであら不思議。調理済みの食料が出来上がるのである。


 こういう時間がない時のために俺は冷凍食品をある程度ストックしているのである。俺は冷凍庫の中身を見る。どれにしようかな。


「この冷凍チャーハン好きなんだよな」


 今日はチャーハンの気分なのでチャーハンを食べよう。チャーハンをレンチンしている間に、俺はスマホでSNSをチェックする。


 さーて、なにか面白いネタはあるかなっと。


 ふとSNSを開くととんでもない量の通知が来ていた。


「え? な、なんだこれ。一体なにが……!」


 俺はここで思い出した。12時にマナナッツの写真を予約投降していたことを。


 編集作業に熱中しすぎていてすっかり忘れていた。


「今までだってこんなに通知来たことにぞ。フォロワー数も結構増えている。やべえ、やべえよ」


 これ、あれか? 俺死ぬのか? バズりすぎて体破裂すんじゃねえのか?

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