第8話 遭遇

『今日は少し遠くまで行ってみないか?』


 俺はそう言ってレスティに声をかける。


『そうですね……だいぶん自由に右手足を動かせる様になって来ましたし、お願い致しても良いですか?』


 はにかんだ笑顔で返事をしたレスティを見てると、元々強い子だとは思っていたが本当に元気になったと思う。

 記憶の方は細かい知識、例えば先日の回復効果の有る草の事や、動物の種類などは思い出せても、何故か自分自身の事はあまり思い出せて居ないようで残念だ。


『うん、そうだね。それじゃ今日は大物でも狩ろうか。』

『え?大物ですか?』

『うんそう、前にレスティが目を覚ます前に一度だけ、狩った事が有る奴だ』


 前に野ネズミを捕まえた直後に奪いに来た奴の事だ。

 あれ以来同じ種類の奴を見ていないが、一匹だけとかは無いだろうから探せば居る筈だ。


『だ、大丈夫なんですか?』

『大丈夫!任せておいて!絶対にレスティは守るから』


 心配そうに質問するレスティに俺は安心させる様に力強く答えた。

 まぁ実際の所、同じ奴なら対策方法はわかって居るので問題無いだろう。

 だが、レスティには言えないがアレ以上の恐ろしい魔物や動物が居ないとは思えない。

 それにいつか森を出ようと思ったら、結局そいつらに遭遇する確率は決して低く無い。

 ただ、動かずにじっとしていたとしても、同じだ。

 今迄に現れ無かった方が寧ろ運が良かったんだと思う。


『わかりました!行きましょう』


 と言っても、決意を込めた瞳で答えるレスティにそこ迄気合いは要らないだろうと、少し吹き出そうになって、俺はそれを堪えて出発の掛け声上げた。


『よし!出発だ!』

 


 今回はこれ迄に行った事の無い川を挟んだ反対側の奥に進んで見る事にした。

 別にこちらに何かが有ると言う自信が有るわけでは無いが荒らして無い分、色々新しい植物も見つかるかも知れないとの目論見もある。


『あまり離れ過ぎて戻れないのは嫌ですので、道がわからなくならない範囲でお願い致します』


 怖怖こわごわとした表情でそう言うレスティに、普通に怖がる姿に少々苦笑いになりながら森の奥に進んで行く。


『元々思っては居たけど、この森は本当に人の手が入って無いんだね……多分狩人の様な人も入って無いんじないかな?』


 今迄も色々と採取する過程で人の気配を感じる様な後を見つけた事が無い。


『……そうですね』


 神妙な声で呟くレスティに、余りにも怯え過ぎだと思えて、理由を聞いて見る。


『随分怯えてるけど、何かあるの?』

『いえ、今居るここは不帰かえらずの森と呼ばれてる事を思い出して』

『不帰の森?……』

『はい、なんでもとても古い遺跡が奥にあると言い伝えが、地元の遊牧民の間にあった為に、近くの街の開拓時に多くの人々が森の奥に向かって入ったけど誰一人として戻らなかったと言われてます』

『それで不帰の森か……』

『はい、それでも今は、入り口付近は普通に動物とかの狩場として使われていたと思います』


 なるほどねぇ、実際の所記憶に有った様な大きな街の開拓時期と言う事は結構むかしの事だろうし、今でも同じかどうかはわからんが、気を付けるだけはしておいた方が良いだろう。

 というか、今の所そういう危険な事は起こって無いが、ここもいつまでも安全とは言えないので、そういう意味でも早めに街に出れるようにすべきだな……。

 少なくとも、ここいらは入り口付近とは言えない奥地だという事も証明された訳だ。


『それなら、これからは今まで以上に警戒も強めて、いざと言う時の為に避難場所か逃亡ルートの確保が必要だね』


 そう言った俺の言葉にレスティは「ハッ」として口を押えた。


『そ、そうですよね。いつも寝てる所も安全とは言えないんですよね』


 失言だったな、言わずにこっそり俺が警戒レベルを上げるだけで良かった。


『ごめん、不安にさせて!大丈夫!俺が絶対にレスティを守るから、だから安心してくれ』


 一応、「はい」と返事をくれたが不安そうな表情は消えない。

 もう少し注意して言葉を選ばないとだめだな。


『……ともかく慎重に行こう』


 色々申し訳ないと思ったが、このままと言うわけにはいかないし、街に行けるようになるためにも道の確認や、素材集めが必要なのでレスティに進むよう促した。



『この辺りは川からも離れて頭上の木々の葉っぱも多いせいか、とても暗いですね』


 レスティの言う通り、高い木々のせいで日の光が殆ど射してこないため薄暗く下生えも殆ど無いために、素材らしい素材が見当たらない。

 食料や売却用の薬草類以外に本来今欲しいの色の濃い植物類なのだが、難しそうだ。


『どうしましょう?、戻りますか?』


 何も得る物が無いと思って、だけじゃなくて、寝床にしてる洞の周囲の方が慣れてる分、安心できるのか早く帰りたくなってしまったのかもしれない。

 しかし、もちろん収穫物を求めてもあるが、街の方角が分からない以上は何かしらのヒントを得たいので、いけるところまでは行きたいのは本音だが、どうしたものか……。


『そうだなぁ、今日は一旦戻るか』

『はい!』


 戻ると言ったら、嬉しそうな返事でよっぽど不安だったんだなと思った。

 ま、実際これ以上進んでも街につながる気はしないし、なにより俺は暗くても魔力で視ているからか見えるので結構遠くまで見通せるが、それでもこの先かなり奥まで変化は無さそうだった。

 そう思って、元来た方へ振り返ろうかと最後に上に生い茂る木々の葉をなんとなしに見上げた瞬間、二人して恐怖で固まった。


 そこには先程まで姿かたちも無かった、巨大な鳥が二本の木の幹を器用に掴みこちらを凝視していた。

 それは赤い体躯に虹色のカラフルな羽を広げ青い宝石のような色の長い尾を垂らしその頭には黄金の冠羽を誇らしげに乗せた雄々しい姿だった。


 まるで停止したような時間の中、数分か数十分かただ無言に睨み合う。

 出ない筈の汗が伝わる幻を感じる。

 俺の中で震えて顔を青くするレスティ。


 巨鳥の殺気が膨れ上がるのが分かる。

 視線を離したら襲ってくるのか?それならこんな相手にしたら矮小な俺達を殺すなんて簡単な筈なのに、直ぐに襲って来ないで何を警戒しているんだ?


『おい!俺達に何か用かよ!』


 恐怖感を抑えながら声が震えないように注意しながら虚勢を張って言う。

 反応が無い、ただ俺を凝視する。


 あ、これ奴には聞こえんわ。

 レスティと直接つないで話してる方法て外に聞こえる訳が無い、緊張してるとは言え間抜け過ぎる。

 というか俺、今迄声出したことあったっけ?記憶に無いわ。


「アー、アー、ン」


 魔力体の一部を口の形に変え、風船の要領で空気を蓄えて疑似声帯で声を出す。


「オイ!オマエ!ナニカヨウカ!」

「グルルルル」


 まぁ、言葉は伝わるなんて思ってないが虚勢を張って声を出せば、もっと警戒して去ってくれるかもしれない。

 と、まぁ無理だった。


「グオオオオオオオオオオ!!!」


 俺の虚勢に怒ったのか、雄たけびのような声を巨鳥があげた。


「クソ!」


 俺は余計な思考を端に寄せ、ただ逃げる為に全身全霊をかける。

 先ずは警戒などに広げてるすべての魔力を引き上げる。

 レスティの身体操作ではまず逃げ切れないので直接俺の操作で身体毎に持ち上げて、魔力で複数の手を作り後ろの木々に伸ばして一気に引っ張る。

 引っ張り切ったら、次の木々に手を伸ばしまた後ろに引っ張る。

 それを繰り返し、ものの数秒でそこから逃げることになんとか成功した。

 幸いな事に、その間も巨鳥は睨みつけるのみで追って来ようとはしなかった。

 逃げれたのでは無い、逃がされたと思うしかなかった。


――――――――――

こんばんわ猫電話キャットテルです。

少しずつ昔の感が戻って来てる気だけはしていますが、スマフォで書いてると誤字しやすくて大変。

ボッチなのでSNS慣れもして無いので(⁠。⁠ノ⁠ω⁠\⁠。⁠)


◇次回 確認

 確認は必要ですよ?二度見、三度見。

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